第9話
*
「ねぇ、お母さん、本当におかしくない?」
「さっきから何度同じことを訊くのよ。
大丈夫だって言ってるでしょ?
髪型も着物もバッチリきまってるわよ。」
お見合いの日まで、私はもう気が気じゃなかった。
期待はしてないはずなのに、しょっちゅうあの写真を見てはうっとりして…
会ってもないのに、あの写真の人に恋い焦がれていた。
本物の沢渡柊司さんじゃなくて、あの写真の人にね。
そして、ついに待望のお見合いの日がやって来た。
奮発して服も何着か買ってみたけど、どうにも納得が出来なくて…
じゃあ、着物にしたら?ってお母さんが言うから、成人式の時に買ってもらった着物を着てみたら、なんだか自分でも良い感じだって思えた。
でも、私みたいな年齢で振袖なんて着ても良いんだろうか?って悩んでたら、振袖は未婚女性の礼装だし、四捨五入したら30だからって、お父さんが言って…
でも、姿見に映る振袖姿の私は、確かに良い感じなんだ。
いつもとは違って、上品にも見えるし、知的にも見える。
これだったら、きっと気に入られる…!はず…
って、あぁ、だめだだめだ。
私、あの写真の人に完全に恋してる。
もう少しでその期待はすべて裏切られるってわかってるのに…あぁ、馬鹿馬鹿!私の馬鹿!
「あ、ここだわ。」
あたふたしているうちに、ついに、待ち合わせの料亭に着いてしまった。
私の心臓は、まさに飛び出してしまいそうになっていた。
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