第9話 お願い、王子様
「早乙女君、この本が好きなの?」
「早乙女君、この問題教えて?」
クラスの女子からはたくさん声はかけられるが、沙樹からは何も声掛けられることもない。
どうやら保育園が同じことだって覚えていないようだ。
早乙女は勇気を出して、沙樹に声をかけにいきたいが、王子様キャラでは難しい。
とはいえ、クールな王子様キャラのおかげで、多少返事が小さくなったり、上手く話せなくても誤魔化せてはいるので助かってもいる。
それでもいつバレるかわからないので、早乙女は、キャラを崩さないためにも、なるべく本を読んで過ごすようにした。
沙樹の前で王子様キャラを崩すわけにはいかない。
早乙女はいつものように図書館に向かっていると、沙樹が見える。
後ろを歩いていると、教室から走って出てきた男の子に沙樹が思いっきりぶつかられて眼鏡がぶっ飛んでいくのが見えた。
男子は他の友達と笑いながら去っていく。
(沙樹ちゃん!)
声かけようとしたが、沙樹は立ち上がって、壊れた眼鏡をかけなおしている。
くるっと振り返って、こちらに向かって歩いてくる。
明らかにゆがんでいて壊れているようだ。
それでも構わず、沙樹はメガネをかけたまま、早乙女の横を通り過ぎた。
どうやら眼鏡のせいか早乙女にも気づいていない。
心配になった早乙女がついていくと、沙樹が階段に向かっているのが分かった。
あの目じゃ危ないかもしれない。
早乙女は先回りして、階段の下へ回った。
すると、「あ」という声がしたかと思うと、上から沙樹が降ってきた。
全力で沙樹を抱き留める。
沙樹が自分の腕の中にいる、そう思うと心臓が飛び出そうになる。
「うへぇあ」と沙樹は声をあげると、さっと距離をとられた。
(沙樹ちゃん、かわいい・・・が、王子様キャラ、俺はクールな王子様キャラ)
「助けたのにそれはねぇんじゃねぇの」
「ごめんなさい、助けてくれてありがとうございます」
「まぁそれだけ元気なら大丈夫だな」
(どんな漫画のセリフだよ)
早乙女は恥ずかしくなって、その場を立ち去った。
「あの、早乙女くん、これ」
翌日、初めて沙樹から声をかけられた。
生徒証を差し出されている。
「昨日はありがとう・・ございました」
コンタクトに変えている。くりっとした目がさらに大きくなって、はにかむ笑顔がかわいらしい。
「別に」
早乙女は気持ちを隠しつつ、さっと生徒証を受け取って、すぐに本に目を向けた。
(可愛すぎる・・・何か、何か言いたい・・・)
絞り出すように「いいじゃん」と言った。
早乙女は本に目を向けたまま、目を指した。
「そっちの方が俺は好み」
(うわー恥ず・・・かっこつけすぎ、俺)
沙樹はそのまま去っていった。
キモいと思われたかもと、ウジウジした気持ちになった。
沙樹はどんどん可愛くなっていく、髪がセミロングでサラサラになっていた時は、体温が上がって鼻血がでるかと思った。
どうすれば沙樹ちゃんと仲良くなれるんだろう、早乙女はそんなことばかり考えていた。
そんな時、次回のLHRで委員会の担当を決めると話があった。
(・・・これしかない!)
沙樹ちゃんと同じ委員になればさり気なく仲良くなれる。
問題はどうやって同じ委員になるかだ。
いい策が何も思いつかぬまま、LHRの時間になってしまった。
しかし、突然チャンスが訪れた。
「図書委員に立候補します」
沙樹が手をあげたのだ。
他に誰も手を挙げなかったので、すんなり沙樹に図書委員になった。
よし、自分も図書委員に手を挙げるぞと思うが、みんなが様々な委員に手を挙げていき、タイミングがつかめない。
やっと落ち着いたところで、勇気を出して手を挙げた。
「図書委員希望で」
(よし、やった俺!言えた!)
心の中でガッツポーズをした。
「他に立候補がいなければ、早乙女は図書委員なー」と担任がいうと、望月が立ち上がった。
「早乙女くんは委員長がいいと思います」
周りも「そうだよなー」「早乙女様がやっぱり委員長よね」とあちこちから聞こえる。
(望月、何で要らないこと言うんだよ!委員長じゃ意味ないんだよ!)
「だそうだが、早乙女どうだー?」
「委員長には興味がないので」
早乙女が焦り気味にキッパリそういうと、「オッケー、じゃあ早乙女は図書委員な」と呑気な担任の声で図書委員に決まった。
早乙女は黒板に並ぶ、自分と沙樹の名前に恥ずかしくなった。
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