第10話 お疲れ、王子様

(沙樹ちゃんと何話そうかなー王子様っぽい話ってなんだろ?)

ウキウキした気持ちで廊下を歩いていると、望月が沙樹を連れて廊下を歩いているのが見える。

なんだか嫌な予感がする。

早乙女はついていくことにした。

空き教室に二人で入っていくと、

「そう。図書委員と副委員長を変わってほしいの」

望月が沙樹にそう言っているのが聞こえる。

(なんてこと言うんだ、こいつは・・・)

沙樹が困った顔をしている。

(沙樹ちゃんにこんな思いをさせるなんて)

そう思った瞬間、ガラガラと扉が開けた。

二人がこちらを見ている。

(やばい、何言うか考えてなかった・・・)

「浦田、今日図書委員の集まりあるらしいぞ」

なんとか言葉を絞り出すと、

「あら、早乙女くん。図書委員なんだけど、私と浦田さんで変わることにしたのよ」

望月があり得ないことを言い出す。

(本当なのか?沙樹ちゃん)

真っ直ぐ沙樹を見ると、望月に視線を移した。

「望月、俺そういう面倒なの嫌だから」

そして沙樹を見ると、「絶対委員会サボるなよ」と言ってその場を去った。

(望月って俺の邪魔ばかりするなぁ・・俺のこと嫌いなのかもな・・・)

心に望月要注意と刻んだ。


図書委員で集まりに行って席に座る。

各クラスごとで並ぶようだ。

沙樹が隣に座ると思うと早乙女の心臓は早くなった。

扉ががらがらと開いた。

沙樹がやってきて隣に座る。

こんな近くで座るなんて保育園以来だ。

「では当番を決めるくじを引いてもらう。代表でどちらか引きにきてくれ」

委員長の一声で、各クラスの代表者がぞろぞろと並ぶ。

沙樹がこちらを見ている。

「・・・浦田、引いてきてくれ」

「え?私?」

顎でくじの方を指し、引いてきてとお願いする。

(これ以上見つめられたら息とまるよ)

早乙女は乙女のような心でうつむいた。


「本当にごめんね」

沙樹が早乙女に五度目の謝罪をした。

「だから、別にいいって」

早乙女は何度も気にしないように言ったが、沙樹は気にしているようだ。

「まさか金曜引くなんて」

「別に何曜でもいい」

「でも早乙女くんはテニス部のエースなんでしょ?部活動に影響が出るんじゃ」

「週に一回休んだくらいで変わるかよ」

(むしろ、長く沙樹ちゃんといれるなんて最高だし)

早乙女は軽い足取りで部活動に向かった。


図書委員は確かに先輩たちが言うように金曜日は忙しいようだ。

国語教師が課題を出したとかで今日は特別忙しい。

この忙しさだと沙樹と話せそうにもない。

淡々と仕事をこなしながら、早乙女は心の中で大きなため息をついた。

落ち着いたところで、先輩に一通り仕事を教わり、本の整理が終わる頃には、下校時刻となっていた。

「疲れた」

沙樹がぐったりといった表情をしている。

「あ、ごめん。私のせいで金曜になっちゃったのにね」

「別に」

何を話していいかわからない。

校門までの道のりが少し長く感じる。

二人の足音だけが響いている。

早乙女の肩の横には沙樹の顔がある。

(こんなに近くを歩けるなんて、やっぱり勇気出して図書委員にしてよかった)

そんなことを考えているうちに、校門に辿り着いた。

「あ、あの私こっちだから」

沙樹が左方向を指差す。

「・・・じゃあな」

そういって早乙女は逆方向に歩いていく。

沙樹も背を向けて逆方向に歩いていく。

沙樹の「疲れた」という顔が思い浮かんだ。

「おい」

早乙女の声が声をかけると、沙樹が振り返った。

早乙女はポケットに入った飴を放り投げた。

沙樹がキャッチするのを見届けると、「気をつけて帰れよ」といって早乙女は再び背を向けて歩き出した。

(これ、小説でみて一回はやってみたかったんだよな~糖分は疲れた体にいいし)

早乙女はもう一度振り返って、沙樹が見えなくなるまで見送った。


その後も特に何があるというわけでもなかったが、図書委員で一緒に仕事をできるだけで、早乙女は幸せだった。

沙樹と同じ空間にいれるだけでも満足だ。

そして初めてのテストで早乙女はクール王子として1位を取るべく、すました顔でかなり勉強をした。

そのおかげで自信はあるが、ぐったりだ。

「テスト終わったし、日曜カラオケに行こうぜ」

元気のいい男子が声をかけてきた。

「早乙女もたまには顔出してくれよ」

いつもなら断るところだが、疲れていたのか「まぁいいけど」と答えてしまった。

カラオケなんて早乙女のかなり苦手なジャンルだ。

その上、望月も「私も行きます」と返事をしている。

その奥に沙樹が見える。真理と何かを話しているようだ。

(これは学校以外で会えるチャンスなのでは・・?)

「浦田、暇だって言ってたよな」

思い切って沙樹に声をかけると驚いた表情をしている。

沙樹の返事を待たずに、「じゃあ浦田と佐藤も参加だな」と元気男子が参加と決めてくれた。

普段はうるさい奴だと思っていたが、こんないい奴だとは、と早乙女は感謝した。

(日曜こそ、沙樹ちゃんと仲良くなる!)

早乙女は心に誓った。

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