ネオ・アストラルシティ編
第32話 目の前の事に集中し過ぎるのは良くないよね
暗く長い通路を一人歩く男は誰かに連絡を入れながら大きく分厚い鋼鉄の扉の前に立った。
スマホをポケットにしまい、横にあったロック画面にパスワードを打ち込み男は鋼鉄の扉を開けた。
扉を開けた先には三メートル弱はある筒状の水槽が並んでおり、その下で多くの研究者が筒状の水槽を使って研究を行っていた。
「進捗はどうだ」
男は歩いて真っ直ぐ進んだ先にいたトサカ頭の男性に声をかけた。
声をかけられた男性は振り向くと現れた男性に向かってお辞儀をした。
「ヒヒッ!、ハイハイそうですね。進捗状況はだいたい6割といったところですかね。既に何個か実験体を召喚しておりますが、全員意識もない状態ですね」
触れるだけでへし折れそうな姿をした男性はお辞儀をした後、現在行っているある研究の経過報告を行なった。
経過報告を聞いた男は深いため息を吐きながらゴミを見るような目で男を見た。
「ハァ…成功例はまだないのか?」
「も、申し訳ございません!す、すぐに、完成を急がせます!」
目の前の男を怒らせてはいけない・・・男は平謝りを繰り返しながらそう強く思った。
ため息一つをするだけで自分の死が連想されるほど冷たい雰囲気を纏わせるその男は後ろを振り返り、"急げ"の一言を呟いて部屋を後にした。
冷や汗を流しながらそれを見送った男はため息をついて研究に戻ろうとした。
「は、博士。よ、よろしいでしょうか?」
「ハァ…なんだ」
また問題点の報告か、と呆れながら適当に聞こうとした男は言われたことに目を見開いて驚き聞き返した。
「こ、これは本当か!?」
「は、はい、第五研究室で保管していたサンプル体の一人が逃げ出しました」
「ば、馬鹿者!誰もみてなかったのか!?」
男は焦り監視カメラに映像を切り替え、すぐに確認したが映像には誰も映っていなかった。
実験サンプルの脱走。これがバレたら自分の立場が危ぶまれる。急ぎ男は失態を拭うため部下にサンプルを探し出すように命令した。
ーー
期末試験が明後日に差し迫っている今日、カケルとダイの二人はメイド喫茶に訪れていた。
「・・・」
「どうしたカケル。至福の時間にそんなムスッとした顔して」
「お待たせしましたご主人様。萌え萌えオムライス2個お持ちしました!」
「はーいありがとうね〜!」
「わかんねーのか」
「全然?」
「お前が勉強教えてくれるって言うから俺来たのにお前ずっとメイドしか見てねーからだよ!!!」
店内に響き渡る怒鳴り声でカケルは叫び散らかしたが、メイドが来て注意され冷静さを取り戻した。
「お前ずるいぞ!メイドさんに注意されるなんて!この卑怯者!」
「うるさいよお前いいから勉強教えてくれよ。ここ奢るから」
「?、元からそのつもりで来てるぞ?」
「おまっ!?、じゃあ教えてくれよ!てかまてお前オムライスこれで何皿目だよ!?」
カケルとダイが店に来てから、四時間が経過していた。その間、ダイは既にジュース五杯、オムライス四皿、じゃんけん7回と楽しんでいた。
「お前!これ幾らになるんだよ!!?」
「うるせーなーケチケチすんなよ。仕事してんじゃんパシリ屋の」
「何でも屋だよ!てか毎回報酬なんやかんやほぼ貰ってないんだよ!金ないよ!?」
「お前たせしましたー!メイドと一緒に食べる超至福の極上メープルバターが入った特大メイドパフェでーす!!!」
長い名前を言いながら出てきたのは食べたら確実に糖尿病まっしぐらな程、甘そうなパフェだった。サイズも机を覆い尽くすほどデカく勿論その分値段も特大だった・・・。
「さ、ご主人様!あーん」
「あ、あーん?何で???」
「?、こちらのパフェは私達がこのスプーンであーんして食べさせてあげる奴なんですよ」
そう言ったメイドが持ってるスプーンはマドラーのようだったが見ないことにした。
メイドがあーん。とても素晴らしいこの状況に思わずダイに向かってサムズアップをし、ダイもそれを見て行け。と言わんばかりの目で返した。
「どうかなさいました?」
「いや?何でもないさ」
少ない量の筈なのに口に広がる甘さにダウンしそうになったが何とか全てカケルとダイは食べ切った。
机に置いてあった勉強道具は全てパフェによってぐしゃぐしゃのベチャベチャにされていた。それを見て全てを諦め結局メイド喫茶を楽しんだ二人はしばしの至福の時間を過ごした後、店を出ることにした。
因みにどうやらこの店は時間でも金を取る店だったらしくぼったくりバー並みの料金を請求され二人は今月の全てのお小遣いとクレジットを使い店を出た。
「・・・まぁ、明日以降の事は明日の俺たちに任そうぜ・・・」
「・・・そうだな。帰るか・・・」
二人は夢の世界から解き放たれ、自分たちが今まで何をしていたのか、何でこんなにお金を使ってしまったのかと後悔しながら帰路を黙って歩いていた。
「・・・ん?おいダイあれ見ろあれ」
「あん?何だよ犬のフンでも見つけたのか?」
カケルは路地裏に目をやると黒い服の人が倒れている事に気がついた。
二人は顔を合わせて酒に酔ってそのまま寝落ちしたんだろと話しだほっとくわけにはいかないという結論になり、声をかけるために近づいた。
薄暗く、床がヌメヌメとしおまけに鼻をつくようなにおいがする道を歩いて近づくと倒れている人に声をかけた。
「おーい、こんな汚い場所で寝てやがると風邪ひくぞ!?」
「くっさい所だな。何だよこの匂い」
「おーいってば、何だよ完全に寝てんじゃん。ん?この人?」
カケルが顔を覗き込むと忍の様な格好をした男だった。
コスプレイヤーが何故ここに?と疑問を感じたカケルだったが、こんな汚い場所にいつまでも置いとくわけには行かないと考え抱き抱えようとした。
「お前よくそんな男、しかも汚い奴だけるな」
「仕方ねーだろ。このままにしとけねーし。それにお前これがもし女だったらどうしてたよ」
「そのまま俺も寝る」
「あーお前はそうゆう奴だよ」
ダイの返答に呆れながら抱き抱えた瞬間だった。二人の斜め上後ろからクナイが数本飛んで来てカケルの頬に擦り傷をつけた。
二人が振り向くと仮面をつけた人物を中心に忍の様な格好をした者達が建物の上に立っていた。
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