第31話 少年が見上げる空は

 「ん、こ、ここは?」


 俺は目が覚めて起き上がり辺りを見渡した。少し古臭い家の周りには木々が生い茂っており、こんな場所は一つしかないなと思い、まだ身体中が痛むが起き上がって部屋を出た。

 まっすぐ進んでいるとさらに見覚えのある部屋に辿り着き、そこには勝った顔が二つあった。


 「ほっほっ、起きたかね」

 「師匠?何で俺がここに?」

 「わしが助けたんじゃよ。たまたま通りかかってな、そしたらお主らが倒れとったでひょいひょいっとな」

 「なるほど、そうだハヤテは?」

 「ハヤテならついさっき起きて日課のランニングをしに行ったぞ」

 「先生。お風呂お借りしました。」


 俺が師匠と話していると後ろから声がしたので振り返ると風呂上がりの天辰がいた。


 「あ、そっかあんたもいたんだったな。・・・ん?先生???」

 「そやつはわしが昔剣術を教えとったいわば弟子じゃよ」

 「あぁなるほどね弟子ね。はいはい・・・てなるかい!!!」


 唐突に告げられた衝撃の事実に驚いている俺を他所に天辰はそのまま師匠の元へと歩いていった。


 「お、おい!どうゆう事だ?」

 「ほっほっほっ、主には話さねばならぬな」

 「よろしいので?」

 「構わん。合格したんじゃ話してやるのが筋じゃよ」

 「何の話だよ」


 師匠は持っていたお茶を啜り、一息ついてから更に衝撃の事実を俺に話した。


 「天辰はわしが仕向けたんじゃ」

 「は?」

 「主が本当にハヤテを任せるのに相応しい相手がどうか確かめるために宗一郎殿に頼んでわしが天辰を向かわせたんじゃ」

 「落ち着け」


 無言で殴りつけてやろうと思い近づいたが天辰によって止められた。


 「あんたな!ハヤテが死んだらどうしてたんだよ!!」

 「安心しなさい。そうならないように天辰には手を抜くように指示しといたから」

 「聞いてませんよ」

 「あり?ほっほっほっ・・・ごめんね?」

 「くそじじぃ〜」

 「ほっほっほっこれもまた修行じゃ。わしお茶とってくるね」


 そう言って軽い足取りでそそくさと逃げるように部屋を後にした。

 そして部屋には俺と天辰の二人が残された。


 (やだ何これ気まず!話した事全くない人、しかも年上と二人きりなんてどんな拷問だよ!!?)

 「前も会ったな」

 「え?あ!そ、そうだったな。あ、あん時は確かイリスがこっちにきた時だったな」

 「あの時もそうだったが、君はいつも揉め事に巻き込まれる少年だな」

 「ハッハッハッ好きで巻き込まれてんじゃねーよ。成り行きだよ成り行き」

 「ほーれお茶じゃよん」

 「いや、俺はいいや。もうそろ帰るわ」


 最初に出されたお茶を飲み干して席を立ち上がり、帰る支度を始めた。


 「なんじゃもう帰るのか?まだ礼も済んどらんと言うのに」

 「おっさんにも言ったが全部成り行きだよ。偶々偶然俺が当たってだけだ礼はいらねーよ。でもどうしてもと言うのならこの口座にお気持ちばかりの金額を入れてくれても構わないぜ?」


 師匠は手渡された紙を見て、ほっほっほっと笑いながらポケットにしまった。

 玄関で靴を履いて立ち上がったカケルはふと何かを思い出したのか振り返って師匠にある事をお願いした。


 「あ、そうだ。ハヤテにさ、死のうとするなよって言っておいて。自分の罪を償うには自分の手で殺しちまった以上の人々を命に変えても守って助けるしか償う方法はないからな」

 「・・・伝えておこう」


 そうしてカケルは日の当たる道を晴れ渡る空を眺めながら一人歩きながら木々の中にある一軒屋を後にした。


 ーー

 3日後


 日課のトレーニングを終えた後、居間に行き朝食を取ると学校に行く準備をして家を出た。

 バス、電車と乗り換えながら学校に向かって歩いていた。


 「ハヤテくーん!」


 振り返るといつものように見知った顔が三人で歩いてきた。


 「おっすハヤテ君!」

 「あぁ・・・おはよう」

 「「・・・」」


 何かおかしかったのか青と緑の二人はお互いに顔を見合わせて驚いていた。

 葵は相変わらず本を読んでこちらに興味がないようだった。


 「なんだ?」

 「あ、いや別に。え、えーと何か変わった?」

 「気のせいだろ。早く学校行くぞ」

 「う、うん」


 放課後、一人で屋上に上がって空を見上げていた。今まで胸の奥でずっと引っかかっていた何かが抜け落ちたせいか心は晴れやかだった。

 しばらくしてまた青達がやってきた。


 「ハヤテ君ご飯食べよ!」

 「ご、ご一緒してもい、いいですか?」

 「私は一人で、」

 「葵ちゃん行こう!」

 「別に構わない。・・・が、一つだけ条件がある」

 「?、何?」


 三人に気づかれないように深呼吸を小さくした。今まではこんな事思ったこともなかった。鬱陶しい奴らとずっと思っていた。

 だけど今はもっと知りたいと思っている。

 だから・・・


 「ハヤテでいい。・・・後、お前達のことも聞かせろ。それだけだ」

 「「「・・・・・・」」」


 今度は三人がお互いの顔を見合わせた。そして青と緑は笑顔でうなづき、葵は少しだけ笑みを浮かべてハヤテに駆け寄って行った。


 どこまでも広がる青空が嫌いだった。


 自由に飛び交う鳥達が妬ましかった。


 自分は何故そこに居ないのだろうといつも考えていた。


 いっそ死んで自分も空へ行こうとも考えていた。


 ・・・だが今は、今は少しだけこの空のことが好きになれそうだなと晴れ渡る空を見てハヤテはそう感じた。

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