第30話 叡智の一撃

 ハヤテの様子を見る為、飛ばされた方まで来たカケルは立っていたハヤテを見つけて声をかけようとした。しかしそれがハヤテじゃないことにすぐに気がついた。

 そして今、ハヤテを取り戻す為もう一度ハヤテと戦っていた。


 「テメェとっととハヤテの体からでてけ!!!」

 「妾を倒したら考えてやらんこともないぞ?」


 先程までとはまるで違う動きでカケルを翻弄しながら的確に傷を狙った攻撃をする怨月鬼に対しカケルは何とか喰らい付きながらハヤテを助ける手段を考えていた。


 「どうしたどうした!もう終いかぁ?せっかく妾が殺してやるんだもっと楽しませんか!」

 「うるせぇな、血がたんねぇんだよ!」


 既にカケルは血の流し過ぎで今にも意識が飛びそうな状態で辺りを飛び回りながら自身を狙う怨月鬼の動きを止めようとしていた。


 「つまらんのぉ。血を流し過ぎたとて妾を止めれない程、弱ってはなかろう」

 「・・・うるせぇって言ってんだろ!第一お前がハヤテから離れたらすぐにでもぶっ飛ばしてやるよ!」


 カケルの動きが悪いのには他の理由があった。

 それはハヤテの身体の心配だ。既に自分の一撃を喰らっている。たとえ鎧を着てたとしても立ってられないくらいの威力はあった筈だ。


 「ほんとにつまらぬのぉ。別のことを考えながら妾とやるとは」

 「お前がハヤテから離れたらお前の事だけ考えてやるよ」

 「それは無理な相談じゃ。妾は今この鎧に紐付けられてあるからな。ハヤテが鎧を脱げば妾は殺し合いができなくなる」

 「くそめんどくせぇなお前」

 「褒め言葉と受け取っておこうかのッ!」


 そう言って怨月鬼は飛び上がりこちらに刀を向けた。天辰との戦いでも似た様なことがあったなと思ったカケルはすぐに身体ごと横に避けた。


 「今のをよく避けた!!!」


 地面を見るとまるで刀が突き刺さった様な後が出来ており、天辰が使った突きの技と同じことをしたのだと考え更に来ることを警戒しようとした時、顔に鈍い痛みが走り、何が起きたのかわからず地面を転がりながら倒れた。


 「ッ!?、いって、な、何が?」

 「意味もなく飛んだとでも思うたか?ほれ、頬を見てみよ」

 「ん?」


 言われた通り頬を手で拭うと血が頬から流れていることに気がついた。

 突きを避けきれなかったのだと考えていたカケルだったが、それを嘲笑うかのように怨月鬼は腹を抱えながら笑った。

 

 「ははっ!主が考えている突きとは違うぞ?これじゃこれ」


 刀を見せられたカケルは黒いオーラがうっすらと見えるのを目にした。

 そしてハヤテが使っていた黒いオーラを刃に纏わせ飛ばしていたのを思い出した。


 「くっそ、そういえばそれがあったな忘れてた」

 「これだけじゃないぞ?ハヤテはこれの使い方を理解していなかったからな。妾が真の使い方を教えてやる!」


 そう言った怨月鬼は黒いオーラを全身に纏わせ黒いオーラで作った手をカケルに向かって飛ばした。

 既に満身創痍だったカケルは抵抗する暇もなくその手に捕まり怨月鬼の元まで運ばれた。

 かなりしっかりと掴まれてしまっており、傷だらけの状態じゃ抜け出すのは困難だった。


 「ぐっあああ!」

 「・・・何じゃつまらん。もう少し頑張れると思ったんじゃがな。これで終いか」


 心底つまらなそうにため息をついた怨月鬼は刀をカケルに向けた。


 「言い残すことはあるか?負け犬よ」

 「ぐっ、あ、ある、ぜ?ぼ、ボロボロの男、痛ぶって、勝ちほこ、んなよ、バ、ババァ」

 「何だ、まだ憎まれ口を言えるだけの力は残っていたか」


 怨月鬼は少しだけ嬉しそうに微笑んでカケルにトドメを刺す為、刀を突き刺そうとした。

 しかしその刃はカケルを穿つことはなかった。


 「"天空龍牙"」

 「何?」

 「お、まえ、は?」

 「無事か?」


 カケルを掴んでいたオーラの手は斬り裂かれ、カケルは自分が先程倒した筈の天辰によって助け出された。


 「何で、お前が?」

 「話は後だ、今はアレを止めるぞ。あの仮面を見ろ」

 「ん?あぁ見えるぞ?」

 「アレがハヤテ君を操っている怨月鬼の本体だ。アレを何とか壊せばハヤテ君は助かる。任せたぞ」

 「お、おお、そうなのか。ん?まてまて、あんた何でそんな事知ってるんだ!?てか任せたっておい!」

 「来るぞ」

 「ははっ!何だ死んだとばかりおもおとったぞ!嬉しいぞ!主とも刀を交えたかったからなぁ!!!」


 先程以上の大きさになったオーラの手でこちらを潰そうとしてきた怨月鬼を交わして二人はハヤテの仮面を取る為に行動を開始した。


 「私が動きを止める!"辰星追撃"」

 「面白い!死に損ない共が手を組むか!」


 天辰は刀を受け止められた側から怨月鬼に攻撃する暇を与えない程の速さと威力で攻撃し続けた。

 怨月鬼はそれを受け止めながらもカケルを自身の視界から離さないように注視していた。

 

 「ほほぉ死に損ないにしてはやるではないか。あの小僧と何か企んでおるのか?」

 「言う必要はない」

 「ははっ!ならば良い!主らの作戦を潰した上で主らをこの手で始末してやろう!!!」

 「ぬッ、」

 「おわっ!?」

 「"婆羅婆羅"!」


 天辰の猛攻を跳ね除け一瞬よろめいた天辰を回し蹴りでカケルの元へ蹴り、オーラを触手のように形を変え無造作に二人に向かって叩きつけた。


 「うわっ!」

 「がはっ!」

 「死ね死ね死ね!どうしたどうした!この程度か?お前達の力はこの程度か!!!」


 ムチのように動き回る触手に翻弄され防御体制をとる暇なく土煙が舞う中、次々に二人は叩きつけられた。

 四、五分経った頃、触手は引き辺りにはボロボロになった二人の姿が現れた。

 

 「ふぅー、久しぶりの外だったのでな少しはしゃぎ過ぎたか」

 「お前、人の、体で随分、す、好き勝手やってん、じゃ、ねーか」

 「主もしつこいのぉ、その体でまだやるのか?」

 「へへ、知らない、のかよ?今時の男子はこんな感じだぜ?あんた、こそい、いい歳こ、いてはしゃぎ過ぎ、じゃ、ねーか?」


 怨月鬼の指摘通り、カケルの体は限界を迎えようとしていた。更に先ほどの攻撃によって右足は完全に使い物にならない程、骨を砕かれ左足は辛うじて無事だが恐らく立つ事がやっとの状態となっていた。


 「ハァ…ハァ…、うっ、」

 「何だ何だ?今度こそ本当に憎まれ口を聞くことしか出来ぬか?」


 片腕、両足は使い物にならず、助けに来た天辰も先ほどの戦いと今の一撃によって立ちことすらできない状態になっていた。


 「惜しいのぉ。主らが全開ならばいい戦いができたものを。勿体無いのぉ」


 怨月鬼は心底残念がっているように見えた。先ほどは呆れた目をしていたのに今は少し悲しそうな目をしていた。一体全体こいつが何をしたいのか分からなかった。

 

 「さて、そろそろ主らも殺させてもらおうかの。特に主はハヤテの心に大きな傷を作れそうだしの」

 「お、れが・・・?」

 「そうじゃよ。主はしっかりとこやつを救っておったぞ。負けすら認めておったわ。まぁそのおかげで妾がこうして出て来れたのだがな」

 「そうか・・・ハハッ・・・あいつ救えてたのかそうかそうなんだな」

 「お、おお。何じゃいきなり気色悪い」

 「んじゃあさ立ち上がらないとなぁ!!!」


 ハヤテを救えていた。救えていたんだ。それだけで気力がどっかからどんどん湧いて出て来た。

 既に使い物にならなくなって来ている両足に力を入れて立ち上がった俺は今度こそハヤテを助ける為、怨月鬼を見た。


 「残念だったなぁ!ハヤテを助けれてたなんて聞いちまったらもう立つしかないだろよ!!!」

 「ははっ!いいぞいいぞ!主みたいな奴は初めてじゃ!何度も何度も立ち上がるとは何という阿呆じゃ!」


 刀を構えカケルに走って差し迫ろうと怨月鬼がした時だった。

 当然。背後から天辰が立ち上がって現れ、後ろから羽交い絞めされ、怨月鬼は身動きが取れなくなった。


 「くっ!、まさか貴様まで起き上がってくるとはな。予想外だったわ!」

 「ハァ…ハァ…し、死にかけだがね。カケル君今だ!」

 「サンキューおっさん。さぁてそろそろお開きの時間だぜ怨月鬼ぃ!!」


 ボロボロになった身体を引きずりながら怨月鬼に近づいた行った。

 当然、怨月鬼も大人しくやられる様な玉ではない。再び発生させた黒いオーラを使いハリネズミのように周りに棘を発生させ俺の使える方の腕と天辰を串刺しにした。


 「がっ!!!」

 「ぐっぅ!、おっさん!?」

 「残念だったな!妾のッ何?!」


 串刺しにされながらも天辰は最後の気力を振り絞り串刺しになりながらも怨月鬼を掴んだ。


 「くっ、バカな!貴様死ぬぞ!?」

 「ぐっ、わ、私のいの、ちはッ!ど、どうなろうが構わん!行けッ!カケル君!!!」

 「ツッ!、うおぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は骨がくだけ、使い物にならなくなった足に力を入れて走った。

 これが自分の最後の一撃となるのが分かった。しかし既に両腕は使えず、両足も今走っているので限界だった。それでも走った。何故なら俺には最終兵器が残されているからだ。

 それは頭だ。人類が地球に誕生してから今まで常に人類の文明発達に貢献してきた人類にとって叡智の結晶と言っても過言じゃない代物。

 そして人間である俺ことカケルにも勿論それは備わっている。

 

 「これで最後だ」

 「くっ、させぬ!」


 無論、怨月鬼だって自分がやられそうになってるんだ抵抗はしてきた。

 無数の針のようなものを黒いオーラで作り出した怨月鬼はそれを飛ばしてきた。一つ一つが正確に人間の急所に迫って来ていた。

 既に避ける気力もない俺は突っ込んでいき、無理矢理突破してやろうと覚悟を決めた時だった。

 どこからともなく斬撃が飛んできて無数の針全てを消し去った。


 「?」

 「な!?なんじゃあ!!?」

 「ハァ…ハァ…あれは・・・まさか?」


 何だか知らないがラッキーに助けられながら、俺は遂に怨月鬼目前まで近づいた。


 「終わりだ!怨月鬼!ハヤテは返してもらうぜ!!!ウォラァァァァァァァァァ!!!」

 「ぐぅぅぅぅ!あぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は怨月鬼のつけた仮面に向かって思いっきり頭突きを決め込んだ。

 頭突きを決められた怨月鬼の仮面は砕けちりながら押さえ込んでいた天辰と共に後方に飛んでいった。

 そして俺も全ての力を使い切りその場にそのまま倒れた。


 「く、くはははは!まさか頭突きで妾がやられるとはな!天晴れだ!くははははははははは!!!」


 そう言いながら最後の仮面の一部が砕け散ると共に怨月鬼の声もかき消えていった。

 そして、


 「んっ、こ、れは・・・?」


 それと変わるようにしてハヤテが起き上がった。

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