第3話 超常はびこるこの世界で・・・
伊藤美希子は持っていたナイフを直ぐに捨てて、カケルに対して問いただした。
「何を言ってるの?私は鈴木、」
「いやあんたは伊藤美希子だよ。んで焼死体の方が鈴木燈。この人の本当の彼女なんだろ?」
カケルは男の顔を見て確認の意味と込めて畠中諭にそう聞いた。
畠中諭は直ぐにうなづき、伊藤美希子を殺さんとばかりの目で睨みつけた。
「あぁ、そうだ!あいつが俺の燈を殺したんだ!」
「何で私が美希子だって言うの?証拠は?警察だって焼死体を美希子って判断したんだよ?」
「その警察に確認したんだよ。聞いた所
によればあの焼死体、何故か念入りに指紋とかが焼かれていたらしいぜ?」
カケルが昨晩電話していた相手からの情報によると焼死体を美希子と判断したのは持ち物や衣類の燃えカスかららしい。それ以外は指紋も骨も何もかも判断出来ないほど燃やされており、通常じゃああり得ない事らしい。
「元々不可解な点が多かった事件らしくてな、そこで俺はこれはもしかしたらnoiseが関係してんじゃねーかって思ったんだよ」
「・・・それで?」
「んで、今朝だ。あいつが貼った筈の結界の札が燃やされていたんだよ。誰かによってな」
「それが私だと?そんなのあの子達の誰かがイタズラで、」
「あいつらは我がままであっても人の命を危険に晒す様な真似はしねーよ。それに極めつけは葵だよ」
何故、彼女なのか?あの子とは一言も話してない筈だと彼女は疑問に感じていた。
しかしカケルが発した一言によってその疑問はかき消えた。
「葵は嘘を見抜けるnoiseを持ってるんだよ。正確には人の感情を色で判別できるんだ。あの夜自己紹介しただろ?その時に葵があんたの嘘を見破ったんだよ」
「昨日、耳打ちしてたのはその事だったんだ・・・」
「そうだよ。どの道ここには警察もやってくる。あんたの指紋を取ればあんたが誰か直ぐに分かるぜ?」
それを聞いた瞬間だった、突如彼女の右手から赤く燃え盛る炎が発生し、カケルと諭に向けて放たれた。
カケルは諭を持ち上げ、それをかわして後ろに後退した。
「そっか、警察も来るならもうダメだね?残念だったなぁ君のことは結構気に入ってたからこんなことしたくなかったのになぁ」
「俺も残念だよ。依頼主が殺人犯なんてさ」
「大体、その男が私の親友である燈と二股かけた上で私を捨てたのが悪いんだよ?そんな事しなければ私はあの子を殺さずに済んだのに」
彼女は既に彼氏を心配して依頼して来た顔でも子供達を見つめていたあの美しかった顔でもなく、復讐に駆られた醜い殺人鬼を宿したかの様な顔でこちらを見ていた。
「力づくでも止めなきゃ行けないらしいな」
「君が守るほどその男は価値なんてないんだよ?」
「しゃーねーよ。これは性分みたいなもんだからな。これが俺なんだよ」
「そうなんだ。でもね私は君なんかじゃ止められないのよ!邪魔するなら君を燃えて死ね!!」
そう言った彼女は今度は両手から炎を発生させカケルに向けて放たれた炎は地面を溶かしながら物凄い速さでカケルに迫っていき、カケルは避ける暇もなく直撃し辺り一面に火花が飛び散った。
「君の能力は身体強化だっけ?いくら肉体を強化した所でこの炎を逃れる術はないよ。当たった時点で君の負け何だよ!!あははははははははははは、はぁー、次」
ジロリと黒い目を諭に向けた美希子は一歩一歩歩いて諭を燃やさんと近づいていった。
「ずっとこの時を待ってたんだよ?諭が行けないんだよ?私を裏切ってあいつの所に行っちゃうんだもん」
「し、知るか!俺の勝手だろ!大体お前重いんだよ!」
「あーあ、女の子に重いなんて言っちゃ行けないんだぜ?そんなこと言ったらどこからともなく変態が現れるぜ?」
「え、、?」
炎は見事にカケルに直撃したはずだった。事実カケルがいた場所は今も炎が燃え盛っており、消えてはいない。それは間違いなくカケルがその場にいる証拠だ。
「なん、で?・・・待って何でまだ形を保っているの!?」
「やれやれ、わかってないでござるなぁ~。カケル殿の一ファンとしてアドバイスを仕方ないからしてやるでござるよ」
倉庫の扉の奥から現れたのは黄昏荘にいた二頭身の犬型aiだった。
「カケル殿の身体強化はそんじゃそこらのnoiseとは桁が違う能力でござる。気持ちに左右されやすい能力ではあるでござるがその気持ちが最高潮に達した時!カケル殿はあらゆる厄災を祓い退ける力を発揮するでござる!!」
ナビの演説の中、炎の中から美希子は確かに見た。真っ直ぐと自分を見つめる赤く光輝く瞳を、
「そう!カケル殿は神魔、怪異、陰陽師に魔法、さらにnoise。超常蔓延るこの世界でそれらに対して圧倒的なフィジカルによる特攻を持つ超常殺しの男!」
ナビの演説が終わるとともに炎の中から現れたカケルは火傷一つ無くその場に立っていた。
「そんな、嘘・・・」
「ナビお前また変な売り文句考えただろ・・・前回の超常はびこるこの世界で唯一無二のイケメンって奴も全く効果無かったんだから辞めろよな」
「何で、何で、」
「ん?あぁ、ナビが言ったことは無視してくれ、俺昔からこうなんだこうゆうのの効果があんまり効かないんだよ」
「そんなの嘘だ!」
ありえない。美希子はあの時、燈を燃やし尽くした光景をしっかりと目に焼き付けた。
そして自分の力の凄さを実感した自分は特別なのだと。神様が自分に復讐の機会を与えてくれたんだと、そう考えていた。
だが現実はどうだ?偶然、燈の家のポストに入っていたチラシを見つけ、畠中諭を探し出す為にダメ元で利用して後は両方とも燃やす算段だった。
その筈だったのだ。今目の前にいる男が自分の目の前に立つまでは全てが上手くいっていた。
「全て上手くいく筈だったのにぃぃぃ!!!」
美希子は先程以上の炎を作り出した。
最早、その温度は太陽フレアにまで達しており熱気が肌を焦がし、空間が揺らめく程だった。
「全て、全て上手くいくの。だって私に神様は復讐する機会を与えてくれたんだもの。今回だってきっと!!」
「もうやめろ!そんなもん作り出したらあんたの体が持たねーぞ!!!」
カケルの言う通り、美希子の身体は既に自信が作り出した炎によって焼き尽くされかかっており、炎を作り出している両手は真っ黒になりボロボロと崩れ落ちて来ていた。
「そんなの関係ないよ!今ここで!私は君を殺すの!だってそうでしょ!?そうじゃないと可笑しいでしょ?何で裏切られた私がこんな酷い目に遭うの!私だけ何でこんなに醜いの?私にも一度くらい日の目を浴びさせてよ!ねぇ!カケル君!!!」
怒り、嫉妬、苛立ち、全てが混ざり合いどす黒い感情が込み上げた美希子には既に自分が何を何のためにしていたのかさえ分からなくなっていた。
「・・・あんたは、そのままでよかったんだ。復讐なんて考える必要はなかったんだ」
これは言い訳だ欺瞞だ。あの人ともっとちゃんと向き合っていれば回避できた事なのかも知れない。あの人の事を知った時に止めるべきだったのかもしれない。
昨晩の子供達を見ていた彼女の姿を目を閉じ思い浮かべてカケルは覚悟を決め拳を握った。
「こい!あんたの全てを受け止めてやる!そしてその上であんたがやった事が間違いだったと言う事をその身で味わってもらうぜ!」
「アァァァァァ!!!」
最早、叫ぶ事しか出来ないほど錯乱した美希子だったが、その手に持った火球はカケルに対して真っ直ぐに放たれた。
「か、か、か、か、カケル殿ッ!?これは流石にやばくないでござるかぁぁあ」
「死んだら葬式やってもらえるかな」
「言ってる場合か!!」
「冗談だよ」
そう言ってニコッとナビに向かって笑ったカケルは自身に迫り来る火球を振り返ったら。
迫り来る火球は触れれば即死、触れなくとも既に周囲を燃やし跡形もなく消し去っている。後ろにはナビと畠中諭がいる。後退は出来ないならばやる事は簡単だ。
カケルは火球に向かって走り出し。
「オラァァァァァァァァァ!!!」
そしてカケルは地面を蹴り上げ、拳を勢いよく火球に向かって殴りつけた。
殴られた火球は凄まじい爆発音を響き渡らせながら弾け飛んで消滅した。
美希子はそれを眺めながら、少年が何故昨日あったばかりの自分をここまでして救おうとしたのか理解できないまま
「本当に君はバカだね・・・」
そう呟きながら意識を失い、その場に倒れた。
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