第2話 "身体強化"

 "noise"

 第三次世界大戦中に確認された特殊な能力を使う人がそう呼称される。かつて存在していた超能力やサヴァン症候群などと言った物もそれらに分類されている。

 noiseはその人が辛い経験や耐えられない出来事が起きた時に発現すると言われているが現在でも分からないことが多く長期に渡って研究が施されている。


 俺こと、カケルも勿論このnoiseを発現した一人である。

 そして今そんな俺と対峙している男、畠中諭もどうやらnoiseを発現した男らしい。


 「くっ、お前もだと?」

 「そ、お前もだよ。俺も能力を持ってんだよ。俺のnoiseは"身体強化"って言ってなま、ありきたりな能力だよ」


 人間は鍛え抜けばどんな事だって出来ちまう。そんな鍛えると言う過程を無視してそう言った人物達と渡り合える身体能力を得るのが俺の力。

 いわゆるドーピングだ。


 「そんで持ってあんたのその能力。見るからに地面に沈めたよな?そこから考えられるのは、」

 「諭?」


 カケルと諭は後ろを振り返るとそこには部屋にいる様に言った筈の女性、鈴木燈がいた。


 「良かった諭ずっと心配してたんだよ?ね?私のところ、」

 「黙れ!黙れ黙れ黙れ!お前のせいでお前のせいでぇ!」

 「やれせるかよ!」


 諭が燈にナイフを突き刺そうと走ろうとした瞬間、カケルはナイフを蹴り上げ拳で諭を殴りつけた。


 「ぐぁ!?く、お、俺は絶対お前を!」


 再び吹き飛ばされた諭は苦悶の表情を浮かべながら不利な状況だと判断したのか、地面に体を沈めて姿を消した。


 「何とかなったけどあんた何で外に出て来たんだ!部屋にいろって俺言ったよね!?」

 「俺が出したんだよ。あんな狭い部屋にレディを入れて置くなんて相変わらずお前は腐ったドブカス野郎だな」

 「めんどくさい奴が帰って来やがったよ・・・」


 俺は深いため息を吐きながら、その原因となる顔が良いだけの変態野郎に目を向けた。


 「何しに来たんだよダイ」


 この男の名前はダイ。性格は無類の女好きの変態。その癖に妙に女に好かれるクズ野郎。

 世の中って理不尽だよな・・・


 「あ?ここは俺ん家でもあんだぞ?帰って来て何が悪いんだよ」

 「お前邪魔なんだよ仕事のよぉ!」

 「あ?やんのかバカケル」

 「いいぜ?やってやんよ!」


 二人が掴み合いの喧嘩を繰り広げている中、二人の後ろからまだ中学生くらいの子で髪をショートカットにしており、顔つきからクールな印象を与える女の子が現れた。


 「二人とも邪魔」

 「ん?おぉ葵お帰り」

 「何だ帰って来てたのかよ」


 彼女の名前は葵。性格は典型的な無口でクールキャラだ。本をよく読んでいて何を考えているのかよくわからないタイプの子だ。

 二人を無視して黄昏荘に入って行った葵を眺めながら俺たちは顔を見合わせて、共に部屋に入って行った。


 ーー


 その日の夜、燈を入れた黄昏荘の面々は共にリビングで夜ご飯を食べていた。


 「改めて俺の名前はガガって言うんだ!よろしくな!でこっちのヘッドフォンをしているのが、」

 「ミューだyo。よろしくだyo」

 「オラはズンでごわす」

 「・・・ハク

 「拙者はカケル殿の忠実なる僕、犬型aiのナビでござる。初めに言って置く拙者のカケル殿に手を出してみろ!貴様を八つ裂ギブべッ!!?」

 「それキモいから辞めろって言ってんだろうが!」

 「あ、わ、私は鈴木燈と言います。よろしく」

 「因みにハクは女だぜ?」

 「え!?そ、そうだったの・・・」

 「・・・ぐすっ」

 「あ、泣かせた」

 「え、あ、ご、ごめんね!?」

 

 そんなこんなあったものの、ひとしきり黄昏荘の面々との自己紹介が終わった後、カケルは燈と改めて依頼内容について話し始めた。


 「あんたの彼氏、noiseを発現していたんだが、何か思い当たる節はないか?」

 「noiseですか?・・・私には何もないです。ごめんなさい力になれなくて」

 「いや君のせいじゃないよ。おいカケルゥ!」

 「お前は黙ってろ!!」

 「そもそも、本当に彼にはnoiseが発現していたのですが?にわかには信じられなくて」

 「何か言えない理由があったんだろ。あとは・・・」

 「あとは最近自分に能力がある事を知ったかだな。強い衝撃によってnoiseは発現するって言うしな」


 自分が言おうとした事をダイに言われたカケルはダイを睨みつけながらまたも喧嘩を始めた。


 「いいとことんなよカス」

 「黙れバカケル」

 「あ?やんのか?」


 二人が再び喧嘩をしようとした瞬間だった、葵がカケルの服の裾を掴み何かを耳打ちしていた。


 「・・・それは本当か?」

 「うん」

 「なるほどな、明日聞いてみるよ」


 ご飯を食べた後はガガ達子供達と依頼主である燈さんがゲームなどをして遊んでいる頃、カケルは自室で誰かと連絡を取っていた。


 『・・・と言うわけだ。どうやら今回もお前は相当深くまで首を突っ込んでいるらしいな』

 「らしいな。はぁ、何とかするしかないか。ありがとうな」


 そう言って電話を切った俺は小さいため息を吐きながら一階へ戻って行った。

 その後はガガ達を寝かせる為にリビングの机をどかして布団を引いていた。

 

 「おい!お前ら遊ばず並べろよ!」

 「えーまだ寝たくねぇよ!」「そうだyo、もっとゲームしたいyo」「オラもオラも!」「・・・以下同文」「拙者カケル殿の隣がいいでござるぅ!!」

 「じゃあお前ら明日はゲーム無しな?後ナビお前は別のところで寝ろ」

 「えーケチー」「ひどいyo」「オラは寝るだ明日ゲームしたい」「・・・就寝」「そんな!?カケル殿ひどい!」

 「だぁーもう!とっとと寝ろよ!」


 カケルは子供達(とai)に絡まれながら仲良さそうにベッドをひいていた。そんな姿を見て燈は思わず微笑んでいた。

 子供達は遊び疲れたのか直ぐにベッドで目を瞑り眠った後、カケルと燈の二人は子供達の寝顔を見ていた。


 「たっく、寝顔は可愛いのにな」

 「ふふっ、お疲れ様。皆んな君のことが大好きなんだね」

 「・・・どうだろうな。そんなことよりあんたも寝たら?今日はあいつらと遊んで疲れたろ?」

 「そんなことないよ。私こう見えて保育士志望だから!やっぱり子供はいいね、笑顔が輝いて見えるもの」

 

 そう話した燈の横顔は夜の光に包まれているからなのか、カケルは思わず見惚れるほど美しかった。


 「へーそうだったのか。・・・あんたならきっといい先生に、」


 何かを言い終わる前にカケルは眠りについた。燈もその姿を見ながらベッドで眠りについた。


 ーー


 次の日の朝、朝食を食べながら昨日と同様に依頼の事について話し合っていた。


 「昨日家の前まで現れてたからな、今日こそはこの家からはでない様にしてくれよ?俺の部屋だけじゃなくて黄昏荘全体に結界を貼っといたから頼むぜ?」

 「うん」


 カケルはトイレに立ち上がり廊下を歩いているとふと部屋の隅に貼ってもらった結界の札が何かによってのに気がついた。

 その時だった。


 「カケル殿!大変でござる!」


 ナビに呼ばれ、急いでリビングに戻ったカケルは燈の口を塞いで地面に潜っている畠中諭の姿があった。


 「ンンッ~~~!!」

 「一緒に来てもらうぞ!」


 カケルは必死に手を伸ばしたが、間に合わず燈は連れ去られてしまった。


 「クソッ!!焦りすぎだバカ野郎!!」


 カケルはナビに声をかけ、二人で急いで外に出て燈を追うため走って行った。


 ーー

 第二倉庫


 海沿いにある倉庫群の中の一つに連れてこられた燈は諭によって縛られていた。


 「やっとだ、やっとお前をこの手で!」

 「んぐンンンッ!!?」


 ナイフを持ち燈を突き刺そうとした時、またもカケルによってそれは止められた。


 「だからやめろって落ち着け」

 「またお前かぁぁぁ!!!」


 諭はナイフを持つ手を変え、カケルに突き刺そうとしたが、それさえもカケルによって押さえられ組み伏せられてしまった。


 「残念だけどあんたがどんな力持ってても俺には勝てねぇよ場数が違うんだよ」

 「クソッ!クソクソクソクソ!クソがァァァ!!!」


 倉庫内には諭の悲痛な叫び声が小玉し続けていた。


 「だから落ち着けって何回言えばわかんだよ。俺はあんたを捕まえに来たんじゃないんだって」

 「はぁ?」

 「俺はあんたを止めに来たんだよ、鈴木燈さん?いや伊藤美希子さん?」

 「え?」


 俺が振り返ると縄で縛られていたはずの鈴木燈を名乗っていた女性、伊藤美希子が畠中諭が落としたナイフを持ちながら俺を刺そうとしていた。



 


 

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