第23話

「参ったな。香織ちゃんに隠し事は難しいか。」


パパは苦笑して頭を掻いてからママと2人で目配せをして話してくれた。


「怒らないでね。正直、波月さんはお得意様だし『恩を売って損はない。』そういう気持ちは有ったよ。

一旦籍に入れて取り敢えず三枝から離したいと言われてね。

君との相性が悪ければ全寮制の女子高に入れていいとも言われたし。」


パパの言葉にママは


「私は反対したのよ。せめて会って相性をみてからにしてってね。」


「はい。」


ママの言い分は当然なんだけど内情を聞くと少し辛い。それでも確かに三枝から離してくれた。それには感謝してるから何も言えない。


「でも貴女の調査資料を見せられて気持ちが動いたの。」


「私の調査資料ですか。」


そりゃあ養子に迎えるなら身元は調べて当然なんだけど…気持ちは複雑だ。

同情されたのかな。私の思考を遮ったのはパパの穏やかな声で


「波月さんから聞いたと思うが彼と香織ちゃんのお父さんと間に約束があってね。」


「6年も前の口約束ですよね。」


私の呆れた声にパパは苦笑した。


「波月さんにとっては忘れられない約束だったんだよ。」


そうなの?でも、


「父の経営してた会社はそんなに大きな会社では無かった筈ですが。」


しかも今はもう影も形もない会社だし。4年前に母を病気で亡くしてから父は無気力になり会社経営をお座なりにした。その結果、会社を失う事になったのだ。

3年前に諸事情から三枝興産の女社長だった三枝麻貴さえぐさまきと再婚して入り婿に入って、私と父は安城の姓を捨てた。

私は旧姓、安城香織あんじょうかおりから三枝香織さえぐさかおりになりそして今、甲賀香織こうがかおりになった。


「波月さんも今の波月さんに成るまでに沢山辛い思いをしたんだよ。

その途中、君のお父さんに世話になった事は彼にとっては忘れられない出来事だった。

だから彼は動いたんだよ。君を救う為に。」

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