第13話

「わかった。お前がそうしたいなら、なるべく早くここを出られる様にしよう。」


黒木さんの言葉に体に入ってた力が少し緩んだ。


「お世話になりました。お借りしたお金は働ける様になったら少しずつお返しします。」


うつ向いたまま頭をさげると。


「必要ない。はした金だと言ってる。」


聞こえた抑揚の少ない声に思わずカッとなった。まだ子供の私にだってプライド位ある。


「それでも気持ちの問題ですから。」


思いきって顔を上げた私は真っ直ぐに私を見つめる無表情な顔にたじろいだ。美しいとしか言えない男に真っ直ぐに至近距離から見つめられるなんて初めて。

息が出来なくてでも視線が外せない。


「お前は見かけによらず気が強いな。」


ほんの少し笑った様に見えたのは気のせいか。冷えた空気が一瞬暖かくなった気がした。


「あのっ、」


「なんだ。」


彼の笑い顔に動揺して勢いで口を開いたものの、話題が思い浮かばない。


「その、あの女の人は…」


咄嗟に私の頭に浮かんだのは私の頬を叩いた人で。私を見つめる彼の瞳が少し陰った気がした。

してはいけない質問だったかな。

思わず口を押さえた私に


「妻だった女。ここには二度と来ない。」


吐き捨てるように彼は言った。

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