第12話

黒木さんは冷静で冷淡な人に見えるけど彼に「大丈夫、忘れられる。」と言われれば無条件で信じてしまえそうな気になる。

何故かな。決して私に優しい顔もしないし声もかけないのに。

身寄りも信じる人も無くした私はやっぱり誰か頼る人が欲しかったんだろうとは思うけど。


「お前の父親とは仕事絡みで生前面識があった。6年前に仕事でウチがそっちに迷惑をかけた。その詫びだ。」


「‥‥‥」


黒木さんは淡々と当然の事の様に口にするけど、仕事上のフォローはその時ちゃんと済ませてる筈だし6年も前の話なのに。


「買われた私はこの先どう生きればいいんでしょう。」


一生奴隷みたいな生活だよね。買われたんだもん。

どうしようもない家族から解放してくれた恩もあるし、ちゃんと黒木さんの口から確認して覚悟を決めたい。


「おまえは、」


ゆっくり口を開く黒木さんの言葉を息を潜めて待つ。


「好きに生きればいい。」


放たれた言葉は意外で、


「えっ?」


ぽかんと口を開く私に


「好きに生きろ。と言ったんだ。」


無表情の口から淡々と紡がれる言葉。


「なんで!だって、私を買ったんでしょう?」


戸惑う私の耳に届く低い声。


「ああ。確かに買ったが黒木の財力から見てたいした金じゃない。」


たいした金じゃない?

好きに生きろ。

それって安く買ったけど私に価値も興味もないってこと!


「…は、はは」


口から漏れる乾いた笑い声を押さえるのに必死で。

そうだよね。高々14才の女だしレイプされて体はボロボロ。女に不自由してる筈もないイケメンが相手にする訳もないよね。

何ができる訳でもなくなんの資格も特技もない女。

少しばかり勉強が出来たって黒木さんの役に立てる訳じゃない。

家事だって一通り出来るけど。だからってこの別荘で働いてる使用人みたいに手際が良い訳じゃない。

役立たずの厄介者。そう言われたんだ私。

それでも助けてもらった恩人に恨み事なんて言えない。きゅっと唇を噛む。


「どうした、うれしくないのか。」


淡々とした問いかけに返事を返せなかった。

自分の頭の中を整理するのにいっぱいいっぱいだったから。彼の声は耳を通りすぎてしまった。

顔を隠してうつ向く私に


「甲賀夫婦は明日お前に会う段取りになってる。お前の体調次第だがどうする?もっと先に延ばすか。」


その問い掛けはハッキリ聞き取れて、黒木さんが私を必要としないから、早く養子先に押し付けたいんだろうと思った。

私は下を向いたまま小さく首をふり


「顔を合わせるなら早い方がいいです。生まれ変わるなら、いつまでもここにはお世話になれませんし。なるべく早くここを出て行きます。」


私はもう黒木さんの顔を見ることが出来なかった。

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