第11話

「新しい名前は甲賀香織こうがかおり。父親はうちの会社の顧問弁護士。母親は専業主婦。時々ボランティアで小学校に絵本を読みに行ってる。30代で子供はいない。若いがしっかりしてる。お前を預けても安心だ。」


甲賀香織こうがかおり。」


馴染みのない名前を口の中で繰り返す。


「三枝の母親とは、まぁお前の義母だが完全に縁を切った。2度とお前の前には現れない。安心していい。義兄も同様だ。」


「ホントに?」


あの二人に関わらなくても生きてけるの。ホントに。私は無意識にすがるような目で彼を、黒木さんを見ていた。


「約束する。安心していい。」


無表情ながら真っ直ぐに私の目をみて頷く彼の言葉を私は信用した。


「それからお前を暴行した男達の事だが報復は済んでいる。彼等の個人情報と報復方法を聞きたいか。」


冷静で単調な彼の声に恐怖を感じて首を横にふる。


「聞きたくなったらいつでも教える。だが出来るなら早く忘れろ。

お前の体は寝てる間に医者が処置してる。妊娠の可能性はない。

ちなみに風呂に入れたのは家のメイド3人だ。口は硬いから心配は要らない。終わった事にとらわれるな。」


彼の声は冷たく素っ気ないけど今はそれがありがたい。


「忘れ…られるかな。」


もちろん何も覚えてないけど。身体の痛みや不安な気持ちはリアルに覚えてる。

震える声で彼に尋ねると、


「大丈夫だ。人には防衛本能が備わっている。嫌な事は綺麗に忘れて生きて行ける。」


「ほ、んとに?」


「新しい名前。両親。学校。大丈夫。全部忘れて新しい人生を生きろ。

望むなら、今まで通っていた学校より数段格上の全寮制の女子高に入れてやる。」


「なんでそこまでしてくれるんですか。」


見ず知らずの私に。

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