第10話

「私、どうして黒木さんのお屋敷に居るんでしょうか?初対面ですよね。」


なるべく冷静に感情を出さないように会話を心がけるが上手く行かない。内心何を聞かされるかドキドキだった。


「俺がお前の家からここへ連れてきた。」


「ここは?」


「伊豆にある別荘。」


「伊豆!?」


聞かされた答えは意外でもないが、家までは遠すぎた。徒歩で帰るのは無理だ。もっとも義理の母の事を思えば帰りたいとも思えないが。

だからといってここもまた決して居心地の良い場所ではない。

ここが別荘なら上条さんは管理人さんという事か。

ぼんやりそんなことを考えていたら、とんでもない言葉を浴びせられた。


「お前は俺がお前の母親から買った。」


「は?」


私を『買った』って彼は今言ったの?


「人身売買は法律で禁じられてる筈でしょう。」


一瞬呆気にとられた私は気付いたら黒木さんを非難してて

何が可笑しいのか黒木さんは口角を上げてそんな私を見た。


「娘に薬を盛って男に差し出すような母親だ。倫理のハードルもかなり低いからな。既にお前の親権は俺の知り合いに移ってる。」


直ぐに無表情に戻ってしまった黒木は淡々と言葉を重ねた。

もっとも私はそれどころじゃなくて

聞かされた話を上手く消化しきれなくて、


「つまり、わ、たしは…」


言い淀む私の言葉に被せるように彼は抑揚のない声で言った。


「お前はもう三枝とは縁が切れている。」


「私は三枝香織ではなくなったと言う事ですか。」


ゆっくりと噛み締める様に目の前の彼に確認した。

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