第5話

パン!!


再び部屋に響く乾いた音。反対側の頬も叩かれた。

防ぐ術もない私は無防備なまま叩かれるしかなかった。


玲羅れいら私の客に何してる!!」


開け放たれたままのドアから低い声が聞こえて玲羅と呼ばれる彼女は怯えた様にドアを見た。

その彼女の傍らでさっき彼女と揉み合ってた男性が彼女に剥ぎ取られた上掛けを被せ直してくれた。


「あ、りがとうございます。」


小さな声で礼を言うと


「いえ。見苦しいので。」


冷たく言われた。

確かに見苦しいと思う。だって私の体中、噛み跡やキスマークでいっぱいだったんだから。

彼女のせいで起きてから初めて全身を見た私だってそう思った。汚くて見苦しいと。目頭が熱くなって込み上げる涙を無理やり飲み込む。

今更だけど。さんざんな目にあって回復しないまま更に傷付けられて


目を閉じて現実逃避を図る私の傍らでは3人の男女がもめていて

やがてヒステリックな声を上げる玲羅と呼ばれた女性が部屋から追い出され、


「失態だな。上城かみじょう!」


冷たく吐き出すような低い声と共に私に上掛けを被せ直してくれた男性が去る。

私は3番目に部屋に入ってきた男性と二人きりになった。

目を閉じたままの私は、ゆっくり私に近づく男の気配に息を飲む。

彼はおそらく私がここに居る事情を知ってる人だ。


「…痛むか。」


耳から入る低い声から感情は読み取れない。

彼の質問は彼女に叩かれた頬を指すのか傷付けられた体を指すのか

それすら判別出来ない。

曖昧に首を振る私に彼は


「チッ」


舌打ちをした。

怯えた私の身体がビクリと跳ねる。彼も私に好意を持つ人では無いらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る