happening『目覚め』

逆上する女と無表情な男

第2話

ん…!!


瞼が重くて目が開かない。身体も怠い。頭も痛い…。

何とか手を動かすと手触りのいいシーツの上を滑った。どうやら私は柔らかなベッドにうつ伏せで寝てるみたいだ。

自分の部屋のベッドじゃない。それは感覚でわかる。マットレスの固さも匂いも違う。

開かない目の代わりにクンクンと鼻を鳴らして嗅ぎ馴れない匂いを嗅ぐ。

甘いフローラルの香りは多分私の髪の香り。シャンプーの匂いがいつものと違う。何となく体から石鹸の匂いもするような…。

お風呂…入った記憶がない。


頭に残る最後の記憶は…

ツキツキと痛む頭に顔をしかめながら考える。

確か、学校から帰って制服のまま母親とお茶したんだよね。ミルクティー飲んだら眠くなって…

まさかと思って見つめ返す母の目は暗く澱んでて、私の瞳はかすんでゆく視界の隅に部屋に入ってきた男の姿をぼんやり捕えた。

そこからの記憶は無いと言う事は

義理の母親が私に眠り薬を盛ったのか。

あり得ない事じゃないから驚かないけど…


香水の香りとタバコの匂いを微かに捉えて一瞬思考停止した私は次の瞬間、無理やり目をこじ開けた。

『一気に血の気が引く』

まさにそんな感じだった。

私は黒い男物の大きなTシャツを着せられてて、大きな襟ぐりから覗く左肩には真っ白なガーゼが当てられていたのだ。

眉を潜めて記憶を辿る。

怪我した覚えはない。少なくとも眠る前までは。

重い体を無理やり動かして何とか右手を肩口迄あげる。焦れったいくらいゆっくりしか動かない指でガーゼをめくり上げた。


「‥‥‥っっ!!」


そこには赤紫に腫れ上がった歯形が付いていた。よく見れば胸元にキスマークも見える。

無理に体を動かした時に走る下腹の鈍痛。

眠り込んだ私の身に何があったのか考えるまでもなかった。

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