第8話

「親切にしたお礼のお守りか。効き目ありそうだな。有り難くもらとく。」


彼はGパンの尻ポッケからキィケースを取り出すと、私が渡したお守りを袋から取りだしひと振りする。

チリンと小さな鈴が鳴った。


「俺が持つには可愛すぎねえか。」

苦笑いしながらも鍵と一緒にキイケースに取り付けてくれた。


「ありがとうございます。受け取ってくれて。」

怪訝な顔をする片瀬さんに


「もう会うことも無いだろうし、お礼しないままだと気になるかなぁって思ったから。」

あわてて説明した。


「律儀な奴だな。」

「すいません。性格なんです。でも、この神社のお守りってほとんど交通安全のお守りなんですね。沢山あって驚きました。」


「そりゃ『神社』だからな。ここは知る人ぞ知る暴走族の聖地だよ。

ま、お前は知らねえだろうけどな。」


私が疑問を口にすると簡単に答えをくれた。


「お走り…成る程ね。当て字ですか交通安全の神様っぽいですね。」


先に立って下り始めた片瀬さんと話しながらゆっくり階段を下りた。


「ネットで騒がれた割には人が居ませんよね。」

参拝客は私と片瀬さんだけだ。


「あ~、まだ朝早いしな。縁結びで騒がれたのは2、3年前だし。族が参拝すんのはもっと遅い時間帯なんだよ。土日ならともかく今日は平日だし。」


先に立って下りてた片瀬さんが石段を下り切った。ほっとして気を抜いたつもりはないんだけど、


「ぅきゃっ!」

猿みたいな叫び声を挙げた私は最後の1段を見事に踏み外した。


「ぅおっ!」


何気に振り向いた片瀬さんが私に気付いて、あわてて右腕を伸ばしてくれる。

仰向けにひっくり返りそうな私の体を引っ張り起こしてくれた。

ぐいっと引っ張り上げられた体はそのまま片瀬さんの体に引き寄せられ、私の顔は彼の固い胸に衝突した。


「‥‥‥!」

思い切り鼻をぶつけた。

つん!と痛みが走って涙がじんわりわいてくる 。


「わりい、大丈夫か。」

助けてくれたのに謝らせてしまった。

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