第5話

私の名前は長谷川美紅。17才になったばかり。

暴力団、長谷川はせがわ組の組長、長谷川祐司はせがわゆうじの娘。

全寮制の私立桜華学園わたくしりつおうかがくえん2年に在籍している。

2年になって総選挙で選ばれ生徒会長になってまだ三ヶ月。

季節は7月。夏休みの長期休暇。

久し振りの実家で、私は8才年上の若頭を務める兄から驚くような話を聞かされた。

私に結婚話が持ち込まれたのだと言う。

生まれて初めての縁談の相手は、山田組という組の組長。人となりは最悪最低。

出来れば一生関わりたくないオヤジだ。何が嬉しくて高校中退で結婚しなきゃならないのか。

近畿敬侠会に属する長谷川組は、会派の中でも小さな組で山田からの結婚話を断るのは難しい。

それでも敢えて断った。

長谷川組としては会派の上にある組の組長との縁談は普通は望む所なのだが、問題なのは私が山田組長が大嫌いで、そしてそれは家族も同様だった事だ。

なんでピチピチの女子高生が父親位年上のしかも子持ち男の嫁にならなきゃいけないのよ。


ところがそれから僅か1週間で

事態は悪い方に一気に動いた。

そして

その事が他の組から私に愛人話を持ち込まれる切っ掛けになった。


『美紅ちゃんが、甥の愛人になるならこの縁談を当たり障りなく断ってやろう。トラブルを納める手助けもしよう。』

そう言う人が現れたのだ。


「相手は妻帯者なの?」


「28才独身だよ。まだ結婚願望がねえんだろ。ただ跡継ぎが欲しいだけかな。」

私の愛人話を苦々しげに口にするお兄ちゃん。跡継ぎ。


「産んだらお払い箱なのかな。」


「わからねえ。2、3人欲しがるかもしれねえし、一生囲う気かも知れねえ。ガキだけ取られる事だってあり得る。」

それでももうひとつの選択肢よりは格段にましだ。


「その方の名前は?」


小田切聡太おだぎりそうた親父をガンで亡くして6年前組長になった男だ。」

小田切聡太。小田切組といえば敬侠会を率いる大きな組だ。そこの組長の愛人なら確かに山田の手から逃げられる。


「そのお話、進めて下さい。」

私はお兄ちゃんにそう告げた。

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