第3話

彼の住む部屋から出た途端に私の前に立ち塞がったのは見知らぬ男。


「まさか、こんなに早くここを出て行くとはね。」

感情の読み取れない抑揚の少ない声に冷たい眼差し。

まだ二十代半ばくらいだろうか、中肉中背だけど繊細で女性的な顔立ちはかなりのイケメンだと思う。

初めて会う人だけど小田切おだぎり組の人だとは解った。


「組長さんから『私を愛人にして長谷川組を助けることは出来ない』と告げられました。

条件が受け入れられなければ、私がここに留まる理由はありませんから。」


頭を下げて立ち塞がる人の脇をすり抜けようとして、腕を掴まれた。


「長谷川組や家族を見捨てる気ですか。一度くらい組長に断られた位で。何度も頼み直す気は無いんですか。」


初めて会った人に罵られた。

何も知らないくせに!そう叫んで泣きたくなる。

何で私が貴方に責められなきゃならないのかと。


「はな、してっ!長谷川組は私が守りますっ。他人の指図は受けません!」


彼の手を振り払う。私の言葉に目を見張る彼はしばらくして意地悪そうな顔でニヤリと笑い。


「小田切の後ろ楯無しでどうやって?」

馬鹿にして笑う顔をキッと睨み付けた。


「小田切にすがろうとした私が甘かったんです。」


「ぁあ゛!!」


威嚇するような不機嫌な声を出す男を無視して歩き出す。

始めからこうすべきだったんだ。


「待ちなさい。あなたお金持って無いでしょう。ここから長谷川組までどれだけ離れてると…」


「放って置いてください。貴方には関係ない話です。」


吐き捨てる様に口にして建物から走り出た。

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