第18話

視線を合わせずポロポロと涙を流す私の顔をしばらく眺めて

桐生仁はスマホを取り出してタップした。


凪砂なぎさか?持ってこい。」


誰かに何かを命令した。嫌な予感しかしない。逆らったから手錠までかけるとか。煙草を持ってきて根性焼きされるとか。

まさか袋詰めされてごみ捨て場に捨てられる!?


「何を考えてやがる。」


唸る桐生仁にびくりと首を竦めた。

怖いよ…誰か助けて!


コンコン!


軽いノックの音に弾かれたようにドアを見た。初めてノックして部屋に入る人が来た!

きっとまともな人に違いない!!


「失礼します。」


期待を込めた私の視線の先に現れたのは、

現れたのは…

ヤクザ…さん?

黒いスーツを着たどう見てもその筋の人だった。

がっくり肩を落とす私の目の前にヤクザさんはトレイを差し出す。

トレイの上にはサンドイッチとオレンジジュース。


「お腹が空いたでしょう。

私が作ったサンドイッチです。よろしければ…」


召し上がって下さいと、笑いかけてくれた。正直 滅茶苦茶怖い顔だけど、

今までこの部屋に来た人の中では一番まとも。優しそうで涙が出た。


「ううっ、ヤクザさん。ありがとうございますっ。」


私の声にヤクザさんは苦笑して、


「凪砂と申します。桐生様の秘書の1人です。どうぞ呼び捨てで。」


トレイをベッドに置くとドアの側まで下がって立つ。


「凪砂、出てろ。」


桐生仁の言葉にも凪砂さんは


「静香様が心配ですので。」


サラリと交わして動かない。

良かったぁ。

こんな悪魔と2人きりとか呼吸困難になって死にそうだったし。

凪砂さんは救世主だ。

少しホッとして、せっかくだからとサンドイッチに手を伸ばそうとしたら、

トレイごと桐生仁に取り上げられた。

か弱い女子高生がやっと手にした食べ物を奪うとか

やっぱりコイツは悪魔だっ!!

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