第51話

『なんだ。珍しい。』


挨拶無しのいきなりの会話は何時ものこと。


「ご無沙汰してます。安生さん。」


伯父さんにあたる彼だが、馴れ馴れしい口は聞けない。一生、松江匠に仕える気なら尚更。


「もうすぐ、そちらに弓槻舞子が顔を見せるかと。」


『ああ゛?! 弓槻のゴキブリ女か!!』


「‥‥‥」


ラフレシアより酷いな。


「うちの葉崎に七瀬のお嬢の事を聞き出し損ねてそちらに。」


チッ。

舌打ちに身がすくむ。

百戦錬磨の男の舌打ちは俺の軽い舌打ちとは格が違う。


『まったく、余計な仕事を増やしてくれる。』


「‥‥‥」


それは俺に向けた言葉かそれとも弓槻舞子に向けた言葉か。


『まあ、いい。充。』


「はい。」


『将来、組長の側に仕えたいなら、あのゴキブリ女位適当に追い払え。』


「はい。失礼します。」


通話を終えた俺は脱力してソファーに座り込む。背中を冷や汗が伝う。まったく電話で話しただけでこのザマだ。


「大丈夫かよ。天城君。」


心配そうな顔の葉崎に誰のせいだと文句をいいかけ口をつぐんだ。


「俺のせいだな。」


怒りに任せての後先考えない采配。

成る程、これじゃあ組長になった匠の側には立てない。


自戒しないとな。




side  天城 充  end

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