第44話

大部屋に出ると、


坂崎さかざき、バイクを使う。鍵。」


ここでバイクを管理してる坂崎に声をかけた。


「車じゃないんすか。」


言いながらバイクの鍵を俺に投げる。


「時間がねえから呼んでる時間が勿体ねえんだ。」


鍵を受け取り戸口に向かうと外川がメットを手渡してくれた。


「被って出た方がいいっす。外に集まってますから。」

「サンキュ。」


黒のフルフェイスのメットを被り面子数人と外に出た。

夜7時過ぎ。まだギャラリーは然程でもない。

俺達幹部が帰るのは0時頃。それを目当てに集まる輩が多い。

それでも10人くらいの男女がこっちを遠巻きに見ていた。


「げっ!!」


思わず声を出したのはギャラリーの中に顔見知りの女がいたからだ。

一際派手ないでたち。露出の多い服。

ケバすぎて吐き気がする。

弓槻舞子ゆづきまいこ

1つ年上の母方の従姉。

勿論、ヤクザのお嬢だ。

ガキの頃遊んだ記憶もない。

なのに何故か


『昔、結婚の約束をした!』


なんて、恐ろしい言い掛かりを着けて来やがる。

あり得ねえ。

春菜みたいな美少女ならともかく、一見ケバい美人だがスッピンの舞子は未知の生物だ。

俺が女に興味を持たないのは偶然見た舞子のスッピンのせいだと言いきれる。化粧なんて魔法で素顔を変える舞子は詐欺師だ。

例え酒に酔っても高熱に魘されても、絶対に指1本触れない自信がある。

あの自信過剰な我が儘女は松江組中の構成員に嫌われていると言って過言ではない。

特に安生はゴキブリを見るような目をする。

さすがに組は訪ね辛いのか時々舞子は溜まり場にやって来る。

まったく迷惑な女だ。

今日は多分春菜の事を問い詰めに来たんだろう。

悪いな。充。後は頼んだ。

メットを渡してくれた外川に感謝しながら、数人の面子に紛れて俺は溜まり場を後にした。

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