第12話

一頻ひとしきり笑った俺と橘は、

お互いに目配せして、呆然と突っ立ってる春菜の前に膝まづいた。


「春菜。話がある。」

俺の声に春菜はピクリと体を震わせた。


「匠君、大丈夫?」

どうやら笑い転げてる俺をかなり心配したようだ。

匠君発言にまた吹き出しかけた橘に肘鉄を喰らわせ


「あんまり大丈夫じゃねえ。」

俺は真剣な顔を作る。


「いいか、よく聞いてくれ。俺達ヤクザは『君』で呼ばれると【笑い死】するんだ。」


「ええっ!!知らなかった。」

知らねえよな。嘘だ。

悪いな春菜。

ただ人前で『匠君』呼びは死んでもごめんだ。

特にあの糞ジジイと糞親父それに安生の前ではな。

彼奴等あいつら、マジで笑い死にしかねねえ!!


「この事は秘密だ。誰にも言うなよ。」

俺の声に春菜は可愛らしく口を押さえてコクコクと頷いた。


「だから、俺の事は匠でいいし、コイツは橘だ。

初音先生はつねせんせいには俺達が内緒にするから。」

俺は優しく春菜に言うと小指を出して指切りをした。


「松江組の狂犬が美少女と指切りとは…」

呆れ顔の橘を睨み付け『テメエは君づけされるか。あ?』

と聞けば


「お疲れ様でした。」

さっさと先に立ち安生の元に逃げ込みやがった。

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