第5話

親父がこの声を出すときは逆らうことを許さねえ。

俺はふて腐れて今まで外していた座布団の上に胡座をかいた。

正座なんてやってられるか。猫被りもやめた。


「許嫁なんて出来たって俺はなんも変わんねえよ。せいぜいセフレ扱いして泣かすだけだ。」


ふん!と鼻を鳴らすと

ジイさんは可笑しそうに笑った。


「よかろう。明日春菜ちゃんに会わせる。抱いて捨てて後悔しないならそれでも構わん。

オマエが躊躇いなく春菜ちゃんを抱くようならワシも彼女をお前の許嫁にするのを諦めよう。」


ジイさんは思い掛けない提案をした。

抱いていいのかよ?


「その春菜って女は抱き捨てて構わねえ女なのか。」

俺が眉をしかめると


「抱く気満々か。」

親父が苦笑した。


当たり前だろ。許嫁なんてこの年で冗談じゃねえ。


「春菜ちゃんの親父は近畿の小さな組の組長だがこの話は俺が是非にと頼み込んだ。」


親父がキツイ目で俺を見る。

訳ありかよ?

それじゃあ手が出せる相手じゃねえだろ。


「構わん。婚約するのはお前だ。相性が悪ければお互い不幸になるだけ。

ただし春菜ちゃんに手が出せなかったら同意とみなして許嫁として公表する。」


ジイさんの声は決定事項を告げるもので俺は渋々頷いた。

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