第62話

「勘弁しろや。」

気絶した奴の顔面ボコるとか絶対ヤだしな。だからと言ってこのまま放置はナイよな。


う~ん。


俺は鞄を取りに戻ると中から油性の黒マジックを出した。


『名前書くかもしれないから。』

亜依ちゃんに持たされたんだよな。

変な所で役に立った。

俺はキャップを外すと顔面にサラサラと落書きをした。ボコ殴りより優しいよな。うん。


「…それ、」

さっき話してた奴がよろけながら立ち上がり2人の顔を覗き込んだ。


「達筆だろ。」

ガキの頃に婆ちゃんに習字習ってたからな。


「…酷くねえか。」


「そうか。」


「『龍牙』に襲われるかも。」


「まあな。自業自得。」


俺は2人の頬の右側に

『打倒 龍牙!』左側に『喧嘩上等!』

新品の黒マジックで綺麗に書いてやった。さてと飯だな。

俺は鞄を持つと隣の教室を覗く。


「鍵かかってるかな。」


さすがに転がってるコイツらの目の前で弁当とか食べたくはない。

せっかくの弁当が不味くなるし。


「鍵ならある。」


さっきの奴が鍵を差し出す。ほらと渡され受けとった。


「いいのか。」


「戦利品だろ。コイツらが文句言うとかあり得ないし。」

チラリと転がってる3人を見ると思い切り顔を縦に振った。


「それじゃ遠慮なく…あ!」

俺の声に皆がビクつく。


「亜依ちゃんにチョッカイ出した奴ってお前か。」

転がってる中でも一番ふてぶてしい顔の奴に聞いてみた。


「‥‥‥」

青くなって震えてやがる。

無言は肯定だな。


「忠告しといてやる。亜依ちゃんのフルネームは真嶋亜依。」


「…真嶋?」

珍しい名前だよな。ここいらじゃ有名な筈だし。


「真嶋組の若姐さんだよ。会いたきゃ若頭邸にいる。若頭が溺愛してるから顔見せたら命はないけど。」

息をのんだ男達をあとにニヤリと笑って教室をでた。

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