第59話

空き教室は2階にあるらしく長谷川はゆっくりと階段を登り、躊躇ためらううように時々俺を振り返る。


「長谷川。」

俺が呼び掛けるとびくりと肩を揺らして振り返る。


「…なに?」


「悪かったな巻き込んで。部屋を教えたら帰ってくれて良いから。巻き込まれたら洒落になんねだろ。」


「湯島くん。」


「俺、修羅場は慣れてるから。」

そう言うと長谷川は泣きそうに顔を歪めた。


「ごめん。僕、喧嘩出来なくて。」


「気にすんな。俺的には空き教室覚えられてラッキーだし。」


「ラッキーじゃないよ!

3年生が3人も待ち構えてるんだよ。みんな湯島くんぐらい背が高いし。僕なんて睨み付けられて口答えも出来なかったし。」

長谷川の背は160くらいだし俺は180センチ越えてるしな。

そいつら三人に囲まれたらそりゃあ怖いよな。あれ?大柄な3年生。

昼休み殴ったのも大柄な3年だったよな。別人か。


「そいつら3人組なのか。」

あの2人とは別人か。


「うん。いつも3人でつるんでる。今朝はその内の1人が綺麗なお姉さんに声掛けてフラれたみたい。」


「亜依ちゃんに声掛けたぁ。

バカだろ。殺されるぞ。」


「殺されるって。」

長谷川がビックリして固まった。


「ああ悪イ。亜依ちゃんの旦那だよ。スゲェ嫉妬深い。」


「旦那?結婚してるの。」


「ああ。新婚さんだ。」


「…はぁ~。」

なんだそのため息は。


「なんか酷い目にあわされたらしくて絶対ヤってやる!とか喚いてたし。」


「へえ。酷い目にあわされたねぇ。」

随分手加減したんだろうな。

ヤってやるってのはアレだよな。

性的暴行ってヤツ。亜依ちゃん相手に


「上等じゃねえか。」


「ゆ、しまくん。」

俺はちょい悪モードにスイッチを切り替えたもんだから長谷川をビビらせちまった。


「あの教室だな。」

俺が顎で指したのはひとつだけドアが開いた教室で。

長谷川は青い顔で頷いた。

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