第54話

せっかく田辺さんや元『牙鬼』の組員達が尽力して『龍牙』を作ったのに。


『龍王もこんなだったの?』


「まさか!あの方が総長ですよ。あり得ません。」


『ふうん?久遠くおんなんて軽かったけどなぁ。』


「今度、シメときます。」

無表情で言わないでよ。怖いから。


『いや、もう2年近く前だし。私あの時彼にエルボーしたし。』

金城さんと話し込んでたら


「…無視しないでよ。」

高校生のボクをすっかり忘れてた。

ぎゅっと腕を掴んで引っ張るから、そのまま彼の胸に飛び込み自由な方の手で彼の腕を掴む。捻りあげて軽く突き飛ばした。

ホントなら蹴りつけるところだ。

私が優しいおねーさんだったことを感謝しな。


『ふん!』

私は鼻を鳴らすと彼に背を向けて集まり始めたギャラリーの中を玄関に向かう。この程度の幹部なら『龍牙』と喧嘩になってもエイなら楽勝だな。

金城さんと2人。ゆっくりと正門を出て少し離れた所に停めた車に向かう。

さすがに私立の男子校。

もうそろそろ始業時間なのにゆっくり重役出勤してくる男の子達がいる。


『校則緩っ。』


「私立の男子校なんてこんなものでしょう。英斗さんだって金髪で転入できましたしね。」

ふうん。どうやら金城さんも重役出勤組だったらしい。

意外。きっちりしてそうなのに。

迎えの車に乗り込みため息をついた。


「若姐さん?」

ヤバ。金城さんに聞こえたらしい。


『昨日世話になったから山崎にお礼を言いたいんだけどね。この声じゃ余計心配されそうだし。』

私が困り顔をすると、


「確かに。じゃあメールとか。ラインでは。」


『ダメ!山崎はメールとかラインやらない人なの。電話は話す物だって。』

私の声に金城さんが苦笑した。


「たまにいますね。そんな人。わかりました私が電話しておきます。

若姐さんからは後日改めてお電話して下さい。」


『助かる。ありがと。』

ニコリと笑うと、どういたしましてと笑い返された。

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