第42話
秀一郎と2人でビイの話をしながら若頭邸の廊下を歩く。
いつも通りの会話が嬉しい。逃走していた時は離れることばかり考えてたけどホテルでの秀一郎は私を見て泣きそうな顔をしてた。
その瞬間もう十分だと思った。これ以上は離れちゃダメだと。
今は組員達の前で威厳を保つこの人には、はかり知れないトラウマがある。
私はそれを解消してあげたかったのに。はからずも逆の行為をしてしまった。
「ごめんね。」
逆上したとは言え最低だ。知ってて態と
「亜依?どうした。」
心配して覗き込む秀一郎を微笑んで見上げる。
「もう逃げないから。」
「ああ。頼むから逃げるな。」
「今度はちゃんと面と向かって文句言う!」
きっぱり言った私に
「男前だな。けど2度はねえよ。」
秀一郎は嬉しそうに笑い私を抱き締めた。廊下で出会う組員達が横によけ頭を下げる。
「「お帰りなさいやし。」」
「ただいま。心配かけてごめんね。」
「すまなかったな。」
「「とんでもないっす!」」
しばらくこのやり取りが続きそうだ。
工藤里江が入れられてる部屋のドアの前には、パイプ椅子に座った殿山という新人君がいた。
私たちを見て慌てて立ち上がり頭を下げる。
「若頭、若姉さんっ。おかえりなさいっ。」
「ただいま。殿山君。ごめんね迷惑かけて。」
「いえっ。」
「ご苦労だったな。」
「とんでもないっす。」
殿山君はドアの前のパイプ椅子を退けて鍵を開けた。
心配して様子を見に来たヒロちゃんズを廊下に残し秀一郎と殿山君と共に中に入った。
フローリングの六畳にソファーが1つ。2人は並んで立ち上がると私に頭を下げた。
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