第37話

ガチャリ。

部屋のドアを開けて後ろのエイに声をかける。


「忘れ物はないね。」


「またガキ扱いして。亜依ちゃんこそ無いのかよ。」


「私は寝ただけじゃん。エイはシャワー浴びて着替えたでしょ。」

会話しながら部屋を出て手に持った部屋の鍵を落としそうになった。


「…秀一郎。」

そこには私の旦那様。真嶋秀一郎が凄まじい怒気をはらんで立っていた。


「亜依、何してた。」

秀一郎の話し方がおかしい。なにこの無感情な話し方。


「なに、って休んでた。」


「ソイツは誰だ。」


「若頭っ!」

私に一歩近付こうとした秀一郎を遮るように金城さんが前に立つ。


「落ち着いて下さい。」

なに、この修羅場チックな場面。


「退け。金城。」

私からは金城さん越しに秀一郎の顔は見えない。ただいつもより低い苛立った声に不安を覚えた。


「退け!」


「秀一郎?」


「若姐さん、部屋にお戻りをっ!」

金城さんの声と同時に彼の体が壁に吹っ飛んだ。


「…秀一郎。」

なんて顔してるの。


「っ、亜依ちゃん!取り合えず部屋の中にっ。」

腕を掴もうとするエイの腕を振り払うと私は真っ直ぐ秀一郎に向かって踏み出した。

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