第20話

「まったく。亜依がいねえとつまんねえな。」

きちんと絞められたネクタイを確かめる様に会場を出た若頭は呟く。

ここはまだホテルの中。

窮屈なネクタイをほどく事は出来ない。


「車の中からお電話されたら如何です。若姐もお喜びでしょう。」


「ああ。そうするか。」

なんとも平和な会話。

このまま何事もなく若頭邸に帰れるものだと思っていた。

ホッと息を吐く俺を若頭がじっと見る。

「伊達、顔色が悪いぞ。帰ったら少し休め。」

気づかれたか。確かにさっきから少し熱っぽい。


「ありがとうございます。大丈夫です。」

もう仕事終わりだしな。俺は笑って若頭に首を振った。


チン!


到着したエレベーター、

反射的に若頭の前に立つ。


「あらロウ君。」

目の前に現れた派手な女が馴れ馴れしく若頭に声をかけた。

警戒する俺に


「心配いらねえよ。工藤里江。従姉妹だ。」

若頭の声に一気に緊張した。確か承希が警戒していた女。


「あら怖い顔。」

目の前に立った女が俺の顔を覗き込む。

ガクッ!


なんだ?いきなり膝の力が抜けた。


「伊達っ!!」

「ちょっと貴方熱があるんじゃないの。」

甲高い女の声もぼんやりとしか聞こえない。ズルズルと崩れ落ちる体を女で支えようとする。

若頭とこの女、二人に出来ねえ。


熱…なんでこんな急に!

まさかインフルエンザをもらったのか。

「伊達とにかく休め。医者を呼ぶ。里江、部屋を用意してもらえるか。」


「わかった。とにかく彼を支えて。スマホで支配人に交渉するから。」

霞む視界の中、彼女の口角が上がったのを俺は確認した。


「わか、がしらっ。金城をっ!」

呼んでくださいと言葉にすることは出来なかった。

暗闇に落ちる直前、彼女が付けてる下品な指輪に針の様なものを見た気がした。





side 伊達奎吾 end。

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