第16話
「早く帰って若姐さんの飯食いたいっす。」
「ああ。…だな。」
東條の声に同意する若頭。
「‥‥‥」
穏やかに笑う若頭か。以前なら切れてたよな。亜依さまを嫁にしてしばらくは滅茶苦茶な執着で明け方まで抱き潰していた若頭も
度重なる亜依さまの抗議と脅しの前に落ち着きを取り戻している。と、言うか。
『体持たないから成瀬に帰るしっ!』
嫁いで四日目の朝、ぶち切れた亜依さまが着のみ着のままに家出しようとして、若頭が頭を下げて何とかその場を乗り切った事が引き金だ。
亜依様は若頭以外目に止めもしないのに何が不安なのか…
次の日から抱き潰す代わりにあちこちにキスマークと言う名の所有印を着けている。
それで精神のバランスを取ってるんだと承希は言うが、白い肌に付いたキスマークのエロさに狼狽える組員が悲惨だ。若姐さんも隠そうとしてはいるが、意図的に付けられたキスマークが100%隠せる筈もない。
「まったく、タチの悪い新婚さんだ。」
愚痴った俺を乗せた車はホテルのエントランスに滑り込んだ。
「東條、
若頭と共に車を降りて、地下駐車場に車を回す東條に伝言を頼む。
彼も承希同様インフルエンザの洗礼を受けて寝込んでいる。
渡辺復帰までのピンチヒッターが金城鳴海だ。渡辺はかかったのが早かった口だから、そろそろ現場復帰できそうだ。そうなれば金城が俺のフォローに付いてくれる段取りだ。
もうひと頑張り。
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