第4話

「あのさ。私は今取り込み中な訳。

それに今、真嶋はインフルエンザ蔓延中だよ。それでも来る気なら悪いけど一人で真嶋組に行って服部さんか秀一郎にそう言って来て。」

服部さんもインフルエンザで戦闘不能状態だけど。エイは湯島の長男坊主だ。私が騒ぎを起こしていても決して粗略には扱うまい。

私が冷たく言うと


「冗談。インフルエンザはともかく。

こんな面白い事を体感しなくてどうすんの。亜依ちゃんどう見ても真嶋から逃げてるよね。」

そう言えばエイもビイも昔からやたら勘が良かったよな。

ヘラりと愉しげに笑いやがるエイがウザイ。別にアンタが体感しなくていいだろ。

内心呟く私の腕を強引に掴むと私のキャップを脱がせて自分のメットを私に被せた。


「亜依ちゃん目立つから。」

確かに今は目立ちたくない。


「ありがと。」

私は素直に礼を言うとエイのバイクのタンデムに跨がった。

免許取れたんだね。エイが4月生まれで良かった。

エイがバイクで私を連れてきたのは高台の公園。

駅とは真逆の場所だ。

真嶋の家からも離れた場所。


「はじめて来た。」

まったく土地勘がない場所だった。


「ここなら真嶋の連中も探さないだろ。」

そりゃあね。普段の私の行動範囲から外れてるし。ベンチに並んで腰かけて笑うエイ。


「エイ。アンタ軽い見かけに依らず賢いんだね。」

思わず誉めたら、


「うれしかねえな。」

もう少し言い方があるだろうと睨まれた。


「で、何ヤったんだよ。真嶋の組員から逃げるとか。来週お披露目だろ。

ここに来て離婚かよ。」

縁起でも無いこと言わないでよ。

それに何で私がヤラカシタ前提なのさ。


「ヤラカシタのは秀一郎。

他の女と無断外泊したんだよっ。」

ゼーハー、ゼーハー。

肩で息をすると

「へぇ真嶋の若頭がねえ。」

涼子姉そっくりの低い声が聞こえて来た。

しまった。言っちまった!

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