第10話 魔物と肉

「ステータスオープン!」


 晴の前に半透明な板が出た。


名前: ナンジョウ ハル  種族: 人間  職業: ダンジョンマスター

レベル: 35

HP: 3,200 / 3,200

マナ: 3,800 / 3,800

体力: 1,800

攻撃力: 320

防御力: 260

知識: 420

敏捷性: 150

スキル: ダンジョン設計(レベル3)

魔物召喚(レベル5)

魔物育成(レベル2)

罠設置(レベル3)

火魔法(レベル9)

氷魔法(レベル9)

風魔法(レベル8)

光魔法(レベル8)

闇魔法(レベル8)



 晴は目を見開く。


「上がりすぎだろ!」


 リオもクスっと笑う。


「そうだな、思っていた以上だ」


 晴はステータス画面をじっくり見る。


「全体的に桁が変わっているな。それに魔法のレベルもかなり上がっている。あれ?

このマナの量だったら…」


 晴が考え込む。


「どうした?」


「こんなにマナがあったらダンジョンにあの魔物たちを召喚できるんじゃないか?」


「そういえば、そうだな」


リオも気が付いたように言った。






「もう暗いし、この森で夜を明かすか?それともダンジョンも戻るか?」


 リオが提案する。


「うーん、どうしようかなぁ。今日は疲れたし、ここで夜を明かそう」


「分かった。それじゃあ、準備するか」


「準備?なんの?」


 晴は純粋に聞いてきた。


「なんのって晩御飯の準備だよ」


 晴は「なるほど」という顔をした。しかし、そのあとすぐに疑問の顔を浮かべた。


「そういえば、俺ってこの世界に来てからご飯食べてたっけ?」


「食べてないな」


 淡々とリオは答える。


「食べなくて大丈夫なのか?」


「ダンジョンマスターはダンジョンからエネルギーを吸収するから基本的には食事は

必要ない」


「へぇー、ダンジョンってすごいんだな」


 晴は感心する。


「そうだな。実際、ダンジョンについて不明なことが多い」


「ふぅーん」


 興味深そうに言った。


「ま、この話はここまで。晩御飯の準備をしよう」


 ダンジョンについてはよく知りたいが、晴は渋々同意した。


「…分かった」


 リオは少し歩いていき、先ほど倒した魔物を咥えて持ってきた。


「え?!ちょっ!リオ!」


 想像もしない行動に思わず声を上げる。


「なんだそんな大きな声で」


「いや、その…食べるのか?…それ…」


「当たり前だろ」


「そう…なのか?分かった」


「いやか?」


「いや…ってわけでは…うーん、いやではあるけど…食べられるのか?」


「食べられるぞ。歯ごたえがあってうまいんだぞ!」


 少しためらうが、食べてみるか。


「分かった。お願い」


「任せろ!」


 リオは顔をキリッとさせる。


「それじゃあ、俺は火をつけとく」


「火?なんで?」


 リオは首をかしげる。


「なぜって肉を焼くからだけど?」


「生でいいだろ」


「だめだよ!俺を殺す気か!」


「まったく、面倒くさいな人間は」


 呆れた様子で言う。


「仕方ないだろ!」


「分かった」


 その言葉を聞き、晴は木を拾いに行った。




数分後


「戻ったよー!リオー!」


 遠くから声をかける。


「おお、戻ったか」


 リオも振り向き答える。


「それ…さっきの魔物か?」


 目の前には先ほどの魔物がすでに解体されていた。さらに、食べやすいようにカットしてあった。


「そうだ」


 淡々と答える。


「木は集まったか?」


「ああ、集まったよ」


 晴は集まった木をリオに見せる。そして、その木を地面に並べる。

 

「さっそく火をつけるか」


 そう言って、晴は木の棒をクルクルし擦り合わせる。


「何をやっている?」


 疑問をぶつける。


「何って、火をつけているんだが?」


 当然のことのように言う。


「おまえ、火魔法覚えただろ」


「あ…」


 晴は一瞬固まり、思わず顔を赤らめた。


「そうだ、火魔法があったんだった…」


 リオは「はあ」とため息をつく。


 少し恥ずかしそうに言いながら、手を前にかざした。


「火魔法!」


 すると、瞬時に木に炎が点き、パチパチと音を立てて燃え上がる。


「最初からそれを使えばよかったのに」


「あはは…」


 苦笑いをする。


「それはさておき、さっそく肉を焼くか!」


「ああ!楽しみだ!」


 リオも目を輝かせて答える。


 目の前にある肉は、先ほどの魔物とは思えないほど普通の肉に見えた。切り分けられているせいもあって、今ではただの料理用の肉だ。晴はその肉を手に取り、木の枝に刺して準備を整えた。


 その肉を火のそばに挿して焼けるのを見守る。


 肉がじゅうじゅうと音を立てながら、炎の熱でゆっくりと焼けていく。脂が溶け出し、滴るたびに火に落ちて「パチパチ」と心地よい音を立てる。焼けるたびに肉の表面がこんがりと色づき、黄金色に輝く部分が広がっていく。香ばしい匂いが漂い、まるで焚き火の中に焼きたてのステーキがあるかのようだ。


「うわ、めっちゃいい匂い…!」


 思わず唾を飲み込んだ。


 火のそばでじっくりと焼かれた肉は、外側がカリッと香ばしく、内側にはまだジューシーな肉汁がしっかりと閉じ込められている。脂がじんわりと溶け、肉の赤身が柔らかく膨らんでいるのが見て取れる。焼けた肉からは食欲をそそる香りが立ち上り、晴の空腹がさらにかき立てられる。


「もう少しで食べごろだな…」


 リオも、じっと焼ける肉を見つめ、黒い尻尾をブンブンと音を立てて横に振る。


 肉の表面がちょうどよく焦げ目がつき、ほどよい香ばしさと柔らかさが絶妙なバランスに達した瞬間、晴は満足そうに枝を火から引き上げた。


「よし、できたぞ!」


 焼けた肉は、ほんのりと赤みを残しつつも、十分に火が通っており、焼き加減は完璧だ。


「うまそう!」


 晴は目を輝かせる。

 

「それじゃあ、さっそく!」


 リオは焼き立ての肉にかぶりつこうとする。


「待て!」


 リオの行動を止める。その声に尻尾をまっすぐ立てて驚いている。


「なんだハル!」


 目の前の肉にお預けをくらい少しいら立っている。


「食べる前に…」


 晴は目をつぶり、手を合わせる。


「どうした?」


「食べる前に『いただきます』…だろ?」


 晴は目を開け、リオを見ながら手を合わせて言った。


 リオはキョトンとした顔で、尻尾をピクピクさせながら首をかしげる。


「いただきます…?それは何だ?」


 少し困惑しながら、リオは晴の真似をして手を合わせる。


「こうやって食べられることに感謝するんだよ。狩った魔物にもな」


「ふぅん、人間はそんなことするのか」


 リオは不思議そうに言いながらも、真似した。


「いただきます!」

「いただきます!」

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