第8話 正体

「リオ!」


 リオは魔物に向かって一歩踏み出すと、目を鋭く光らせた。魔物が突進してくるその瞬間、リオの体から暗いオーラが立ち上り、辺りの空気が一変する。晴は息を呑

み、その様子を見守った。

 魔物は唸り声を上げ、リオに襲いかかろうとしたが、突然その動きが止まる。リオの足元から黒い触手のようなものが出現し、その触手が魔物を巻き付けるように縛り上げていた。


「な、なんだこれ…!」


 晴は驚きと恐怖を感じながら、リオの異様な力に目を見張る。

 触手がさらに強く締め上げる。魔物が苦しそうに呻き声を上げる間もなく、触手が一気に勢いを増し、凄まじい力で締め付けた。その瞬間、魔物の体は粉々に砕け散り、破片が辺りに舞い散った。


「あ…」


 言葉が出なかった。晴はただ目の前の光景に呆然とし、自分の思考が追いつかない。まるで夢を見ているかのように、信じられない現実が目の前に広がっていた。


「こんなもんだ」


 リオが冷静に言った。驚きや興奮の色はなく、まるで日常の出来事のように。その言葉には、何かを誇るわけでもなく、淡々としたものが感じられた。


「……こんなもん、だって?」


 晴はようやく声を絞り出す。


「ああ、特に難しいことじゃない。これくらいなら問題ないさ。」


「お前、何者なんだよ…?」


 晴はリオに向き直り、その正体に対する疑念を抱きながら問いかける。リオの力が異常すぎて、自分とは別次元の存在だと感じざるを得なかった。

 リオは晴の問いかけに一瞬目を細めたが、すぐにいつもの柔らかい笑みを浮かべた。


「ボクは、ただ君のサポーターだよ。それ以上でもそれ以下でもない。」


 リオは微笑みながらそう答えるが、その言葉の裏にはまだ何か隠されているような気がした。


「本当に…それだけなのか?」


 晴は疑念を隠せずに問いかける。


 リオは微笑みを浮かべたまま、少しだけ視線を遠くに向けた。何かを考えているかのように見えるが、その瞳は何も語らない。


「君がそう思いたいなら、それでいいよ」


 そう言うと、リオは歩き出す。


 晴はリオの背中を見つめながら、何も言えなかった。彼の正体が何なのか、晴にはまだ分からない。しかし、それが今は問題ではないような気もする。目の前の危機を乗り越えるために、リオは確かに自分の側にいてくれている。それだけで十分だと、無理やり自分を納得させた。


「ところでよ。ハル」


 その言葉に晴は体をビクッとさせた。


「な、なんだ…」


 晴は身構える。


「さっき見せたように、ハルはこの世界ではまだ弱すぎる」


「…は?」


 思いがけない言葉にキョトンとする。


「あのダンジョンのマスターとしてもっと強くなくてはならない」


「俺がか?」


「そうだ。ハルにはボクぐらいには強くなってほしい」


「リオみたいに…?」


「ああ」


「でも、なれるのか?」


「なれるさ。ボクがついているのだから」


 少しの間考え込む。そして決心した顔で言った。


「分かった!やってやる!」


「その意気だ!それじゃあ、特訓開始だ!」


「ああ!」


 勢いよく言った。


「まず最初は…」


「あれ?」


 晴はリオの言葉を遮る。


「どうした」


「そういえば、ダンジョンは大丈夫なの?」


 リオは考え込む。


「まあ、大丈夫だろ」


「そうなのか?」


 不安そうに聞き返す。


「ああ、ハルが生きている限りダンジョンは存在し続けるし、たとえ冒険者に攻略さ

れたとしても今は何も不利益を負わないからな」


「そうなんだ。なら安心だな」


 晴はそう言い、胸を撫で下ろす。


「そんじゃあ、特訓をするか」


「そうだな。…とは言ったものの、何をするんだ?」


「そうだな…ハルにはさっきみたいな魔物を倒してもらう」


「は?」

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