第7話
「……実力ですか」
レイナは顎をしゃくり、訓練場の片隅に並べられた武具棚を指し示した。
「そう。ここはアルバリアの魔法騎士団の訓練場。実力を持たぬ者が立ち入る場所ではありません。あなたの立場がどうであろうと関係ありません。ここで尊敬を得るのは、ただ一つ……『力』だけです。」
彼女の目は冷たく光り、その視線はセレスタを試しているかのようだった。周囲の騎士たちも一斉に彼女を見つめ、その瞳には好奇の色が浮かんでいる。
「なるほど……私に『力』を証明しろと?」
セレスタはゆっくりと視線を武具棚に移し、剣の柄に手をかけた。騎士たちが一瞬ざわついたが、彼女は構わずに剣を手に取った。それは普段自分が扱っているものよりも重く、バランスも異なる。しかし、かえってその重みが彼女の心を落ち着かせた。
(ここで退いては、彼らの見下す視線を肯定することになる。私は……)
「分かりました。お望みとあらば」 彼女は深く息を吸い込み、心を静めた。
「お待ちください、セレスタ様。」
彼女は立ち止まり、声の主を振り返る。そこに立っていたのは、落ち着いた雰囲気を持つ年配の騎士だった。彼の柔らかな表情と穏やかな声は、先ほどまでの冷ややかな視線とは対照的で、ほんのわずかにセレスタの心を和らげた。
「よろしければ、騎士団の訓練用の服をお貸ししましょう。」
「え……?それは、ありがたい申し出ですが……」
彼の提案にセレスタは一瞬驚いたが、すぐにその意図を理解した。華やかなドレスは動きづらく、剣を使う際には圧倒的に不利になる。騎士たちから軽んじられないためには、身軽な服装が必要だと分かっていたが、他人の助けを借りるのもためらいがあった。しかし、周囲の視線がますます厳しくなる中、このまま退くわけにはいかないと、覚悟を決める。
「……分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。」
セレスタは毅然とした声で答え、騎士の案内に従って更衣室へと向かった。手渡されたのは、シンプルで機能的な魔法騎士団の女性用訓練服だった。深い藍色を基調とし、身体の動きを制約しないデザイン。腰には細身のベルトが巻かれ、裾には美しい銀の刺繍が施されている。袖を通してみると、意外にもその素材は柔らかく肌に心地よい感触があった。
(これが……騎士たちが普段着ているもの……)
セレスタは服の感触を確かめながら、ゆっくりと鏡の前に立った。ドレスからこの騎士団の服へと着替えたことで、気持ちが引き締まるのを感じる。優雅な王女の装いではなく、一人の戦士としてこの場に立つ覚悟が、服装によってさらに強まったように思えた。
着替えを終え、更衣室を出ると、先ほどまで冷ややかな視線を向けていた騎士たちの表情が僅かに変わるのを感じた。彼女の姿は、今やただの王女ではなく、この場で己の力を証明しようとする『挑戦者』のそれだった。
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