第4話
セレスタは緊張に押しつぶされそうな心を何とか奮い立たせた。アルバリアの者たちは、セレスタがこの婚姻にふさわしいかどうかを疑っているのだろう。
魔法が使えない王女としての評判、そして前線での戦果を誇張された作り話だと侮っているのかもしれない。
アルバリアもセラフィス同様、魔法主義の国だ。魔法が使えない王女など、こちらでも歓迎されないのは覚悟している。
それでも、彼女は自分の弱さを見せたくなかった。たとえどんな目で見られようと、彼女がセラフィスの王女であることには変わりない。そして、彼女はこの国で果たすべき役割を持っている。
(この結婚は、セラフィスとアルバリアの結束を示すためのもの...国を守らなければ。)
セレスタは自らに言い聞かせるように心の中で繰り返した。ヴァルグリムの侵略に対する抑止力として、二国の繋がりを示すことが必要だと理解している。それがどれほど形だけのものであっても、二国が連携しているという事実は、ヴァルグリムにとって軽々しく手を出せない要因となるだろう。
だが、アルバリアの側にとって、この婚姻にはほとんど利点がないはず。アルバリアには、どの国にも太刀打ちできないであろう精鋭の魔法騎士団が存在する。国中の魔法使いたちの中でも選りすぐりの騎士たちが集められたその部隊は、攻防共に強大だ。その中でも特に有名なのは、現在の騎士団長であるリシュアン・ストラストだ。
「これより、リシュアン・ストラスト騎士団長が入室されます。」廷臣の一人が深々と頭を下げると、謁見の間の扉が静かに開いた。重厚な木製の扉がギィッと音を立てると、堂々たる体躯を持つ男が姿を現した。
鋭い眼差しに、黒髪を短く整えた顔立ち。身に纏う漆黒の騎士服は、魔法の紋様が走り、見る者に圧倒的な威圧感を与えている。彼がリシュアン・ストラストだと、セレスタはすぐに理解した。彼の存在感は、ただの騎士とは明らかに異なり、その場の空気を一変させた。
「アルバリア騎士団長、リシュアン・ストラスト。お初にお目にかかります、セレスタ・ルクレシア王女殿下。」
彼の声は低く、力強く響く。
リュシアンは隠す気のない鋭い視線をセラスタに向けている。まるでセレスタの価値を測ろうとしているようだ。
「初めまして、リシュアン騎士団長。あなたの名声は私も耳にしております。」
セレスタは毅然とした態度で応じる。リシュアンのような男に気後れするわけにはいかない。
「陛下、改めて確認させていただきますが……この婚姻、本当に実行されるのですね?」
リシュアンは王に向かって一礼しながらそう尋ねた。王の瞳が微かに鋭く光る。
アルバリアの中には、この婚姻に不満を持つ者が少なくないはずだ——私と婚姻を結彼は特に。
「そうだ、リシュアン。この婚姻は、セラフィスとの同盟を強化するために不可欠なものだ。お前も理解しているだろう?」アレクシス三世は静かに告げたが、その声には有無を言わせぬ力強さがあった。
「……承知しました。」リシュアンは短く応じたが、その顔に見えたのは納得の色ではなかった。
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