第10話


結局、リュシアンとはあの訓練場以来会うこともなく、日々を過ごしていた。



けれど、ちょっとした変化が起きている。ここ最近、リュシアンの弟であるアルバートと顔を合わせる機会が増えたのだ。



アルバートは離れに住んでいるため、会おうと思わなければ会わない。しかし、最近は庭を散歩しているとばったり会うのだ。それも不思議なくらい。そして会うたびに少しずついろいろな話をするようになった。





ある日、セレスタはいつものように庭を散策していると、遠くからアルバートの姿が見えた。最初は緊張していたアルバートも今では、普通に話しかけてくれる。


「セレスタ様!」とアルバートが笑顔で近づいてくる。2人でのんびりと庭を散歩しながら当たり障りのない会話をする。


「セレスタ様は兄上とうまくやれてる?」


「多分、避けられているわ。」



セレスタの言葉にアルバートが申し訳なさそうな表情を浮かべた。



「…兄上はさ、女性が苦手、というか。たぶん、それ以上の感情を抱いているんだ。」


アルバートとベンチに並んで座る。



「母上は....他の男の人と恋愛関係になって家を出たんだ。家のためにも子供を産んで、でも子供を愛することができなかったって....それが兄上の女性に対する不信感を抱くきっかけになったんだと思う。」


「僕はまだ小さかったからほとんど覚えていないんだけどね。兄上は、かなり傷ついたはず。父上もそこから女性が苦手になったらしくてね。政略結婚でも、父上は母上のことを愛していたそうだし。」




「そんなことが...」


セレスタはその話をじっと聞き入った。家族の事情が彼の心にどれほどの影を落としているのか、少しずつ理解できてきた。




アルバートは小さくため息をつき、少し遠くを見つめながら言った。



「それに兄上だって、あの見た目と立場だからさ。周りの女性が放っておかないんだよ。薬を盛られたり、ストーカーされたり、あることないこと言われたり...もううんざりしてるんだ。」


リュシアンの外見は彫刻のように整っており、その美しさは王太子と並んでも見劣りしないほどだと噂されている。



「女性は自分勝手で、相手の気持ちなんて考えない。僕も、兄上の周りにいる女性たちを見て、苦手意識を持つようになったんだよ。」



素っ気ないを通り越したリュシアンの態度の背景を知ることができたのは、この国でどうしていけばいいか未だわからなかったセレスタにとって有難いことだった。



「セレスタ様。僕は、セレスタ様はそんな女性たちとは違うと思ってる。兄上を、どうかよろしくお願いします。」


アルバートの真っ直ぐな瞳に眩しさを覚えながらも、セレスタは小さく頷いた。リュシアンと仲良くできる自信など、これっぽっちもない。それでも、愛情が芽生えなくても、せめて友情を育んでいけたらと思う。








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