第50話「元の世界に戻ったかと思ったら、すぐ戻ってきちゃった件」
「…おはよう、茜!」
耳元で聞こえる、やけに陽気な声で目を覚ました瞬間、茜は思わず布団を蹴飛ばした。
「な、なに? ここ、私の部屋?」
見覚えのある天井、そして隣に置かれたスマホ。どうやら、久しぶりに見慣れた現実世界に帰ってきたようだ。
「いやっほー! 茜、戻ってきたぞー!」
部屋の隅でピョンピョンと飛び跳ねるアレックスを見つけて、茜は凍りついた。
「……なんであんたがここにいるの?」
茜は布団を握りしめたまま、静かに質問した。
「だって、一緒に戻ってきたんだもん!」
アレックスは無邪気に言い放つ。
「嘘でしょ…なんで転生先のキャラが現実にいるのよ!」
茜は目をこすり、必死に現実を受け入れようとしている。だけど、いくら見直しても、そこにはしっかりと現実世界に存在するアレックスが。
「いや、だからさ。あの玉を使った時に、何か間違えちゃったんじゃない?」
アレックスがキラキラ光る玉を取り出しながら、ニヤリと笑った。
「まさか…その玉のせいで?」
茜は額に手を当てて、深くため息をついた。「なんでこんな展開に…」
「いやでも、面白いじゃん! 現実世界でまた冒険するのもアリだろ?」
アレックスは軽く肩をすくめた。
「いや、アリじゃないから!」
茜は思わず叫んでしまった。
「ほらほら、落ち着けって。神様もいるし!」
そう言って、アレックスは部屋の隅に座っている神様を指差した。
「……なんで神様までいるのよ!」
茜は絶句した。そこには、緩んだ表情でスマホゲームに夢中になっている神様がいた。
「よっ、茜。戻ったのか?」
神様はスマホをチラッと見せながら軽く挨拶する。
「いやいや、何してんの? 神様がそんなダラダラしてたらダメでしょ!」
茜は思わず突っ込みを入れる。
「んー、だって暇だし。しかも、ここって現実世界だろ? 別に俺、仕事しなくていいんだよね」
神様は無気力に言い放ち、再びスマホに集中した。
「そんな理屈通らないから!」
茜は頭を抱えた。「これ、私の人生どうなっちゃうの?」
「ま、いいじゃん! こうなったら、現実世界でもドタバタ冒険しようぜ!」
アレックスは腕を組んで自信満々に笑っている。
「いや、現実世界にそんな冒険とかないから…」
茜は小さく反論したが、アレックスは聞く耳を持たなかった。
「じゃあさ、まずはコンビニ行こう! 俺、現実のコンビニに行きたかったんだよな~」
アレックスがウキウキと提案する。
「はぁ…わかったよ、行こう。どうせもうめちゃくちゃだし」
茜は諦めたように肩をすくめ、部屋を出る準備を始めた。
「お、俺も行く!」
神様が急に立ち上がり、スマホをポケットに突っ込んだ。「コンビニのパン美味いんだよな~」
「神様まで…」
茜は深い溜息をつきながら、二人に続いて玄関に向かう。
「よし、出発だ!」
アレックスは意気揚々と扉を開けた。
だが、玄関を出た瞬間、茜は再び現実が崩壊する瞬間を目の当たりにする。そこには、いつもの街並みではなく、見覚えのある異世界の風景が広がっていた。
「えっ…ここって、また異世界じゃない?」
茜は目を見開いた。
「おかしいな…コンビニはどこ?」
アレックスがキョロキョロと周囲を見渡している。
「なんで…またここに戻ってきたの?!」
茜はもう限界を迎えた。
「いや、知らん。俺もびっくりしてるし」
神様がポケットから玉を取り出し、軽く転がして笑った。「またちょっとミスっちゃったみたいだな」
「そんな軽いノリで転生させないでよ!」
茜は神様に詰め寄る。
「まぁまぁ、次こそちゃんと戻るから」
神様は涼しげに言いながら、再びスマホを取り出していた。
「本当に次こそ…?」
茜は半信半疑のまま神様を睨んだが、すでに彼はゲームに集中していた。
「はは、茜! これが俺たちの運命なんだよ!」
アレックスが無邪気に笑いながら、茜の肩を叩いた。
「運命じゃないから…! こんなの全部、神様のズボラさのせいじゃん!」
茜は怒りを抑えきれず叫んだが、周りの二人は気にする様子もなかった。
「さて、次の冒険はどこに行く?」
アレックスが楽しそうに空を見上げた。
「もういい加減にしてよ…」
茜は力なくつぶやきながら、再びドタバタな冒険が始まる予感に、頭を抱えた。
+++++
おしまい
転生したら神様がクソ適当だった件 柊れい @hiiragi2024
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