第49話「アレックス、奇跡を起こしたかと思った件」
「おい、茜!」
アレックスが再び声を張り上げた。彼はすっかり諦めたような顔をしていたが、何かを思いついたらしい。
「どうしたの? もう、何度も言うけど、そんなに無理しなくていいよ」
茜は軽くため息をつきながら、アレックスの方を振り返った。
「いや、今度こそ本当に何か起こるんだ!」
彼は自信満々に宣言し、茜と神様に近づいてきた。
「アレックス君、またそのパターン? そろそろネタ切れじゃないの?」
神様が少し呆れたように言うと、アレックスは眉をしかめた。
「ネタ切れじゃない! 今回は、俺が手に入れた“アレ”を使うんだ」
アレックスはどこからか取り出した、キラキラと光る玉を見せた。
「あ、それ…まさか、神様からもらった玉?」
茜が驚いた顔でアレックスを見つめる。
「そうだよ! これ、まだ使ってなかっただろ?」
アレックスは得意げに言った。
「いやいや、なんで今まで使わなかったの?」
茜は呆れたように質問する。
「……忘れてた」
アレックスが恥ずかしそうに答えると、茜と神様は一瞬沈黙し、次の瞬間、爆笑した。
「忘れてたって…アレックス君、それ最高だよ!」
神様が笑いながら、アレックスの背中をバンバン叩いた。
「本当、どこまでズボラなの…」
茜も涙を浮かべながら笑い転げている。
「うるさい! とにかく、この玉を使えば、俺に奇跡が起こるはずなんだ!」
アレックスは必死に反論し、玉を高々と掲げた。
「でも、その玉ってどう使うんだっけ?」
茜が真顔に戻り、少し疑問を口にした。
「え? ああ…確か、神様にお願いして使うんだったかな?」
アレックスが首を傾げながら神様に視線を送った。
「いやいや、俺だってそんな面倒なこと覚えてないってば!」
神様は肩をすくめながら、軽く笑った。「どうせ適当に使ってみたら、何か起こるんじゃない?」
「適当…って、おい!」
アレックスは神様のいい加減さに再び呆然としたが、仕方なく玉に向かって心の中で強く念じた。
「よし、これでどうだ!」
アレックスが玉を握りしめた瞬間、突然、周囲がまばゆい光に包まれた。
「うわっ! 何だこれ?!」
茜が目を覆いながら叫ぶ。
「ははは! ついに来たか、奇跡の瞬間!」
アレックスは嬉しそうに光の中で立っていた。
だが、光が収まった後、何も変わらない景色が広がっていた。
茜も神様も、特に変わった様子はなく、ただ周囲が元通りになっただけだった。
「……あれ?」
アレックスは自分の体を見下ろし、不思議そうに首を傾げた。
「もしかして、何も起こってない?」
茜が疑問を口にすると、神様は頷きながら腕を組んで考え込んだ。
「うーん、もしかすると、君の願いがちょっと弱かったかもね?」
神様がふざけたように言うと、アレックスは崩れ落ちた。
「何だよ、それ…こんなに期待してたのに」
彼は地面に手をつき、無力感に打ちひしがれている。
「ま、気を落とさないでよ。これがアレックス君の奇跡だったってことで」
神様は肩をすくめながら、軽く励ました。
「それ、全然奇跡じゃないじゃん!」
アレックスは怒りを抑えきれずに叫んだが、茜と神様は笑いながら彼の横を通り過ぎた。
「次こそ、もっと強く願ってみればいいんじゃない?」
茜がアレックスの肩を軽く叩きながら、遠くへと歩いていった。
「くそ…俺の奇跡…」
アレックスは呆然とその場に立ち尽くしていた。
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次回予告:「元の世界に戻ったかと思ったら、すぐ戻ってきちゃった件」
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