第37話「茜が魔王の策略にハマったけど、予想外に助けられた件」


「結局、魔王に誘われたけど、断って正解だよね…?」


 茜はあの胡散臭い魔王とのやり取りを思い出しながら、自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。彼に従うことに対しては、どうしても危険な予感しかなかった。


「でもさ、なんか…気になってきたかも」


 しばらく歩いていると、ふと魔王の提案が脳裏に浮かんできた。「俺が解決してやろう」と言っていたあの自信たっぷりな態度…もしかしたら、本当に何か解決策があるのかもしれない。


「でも魔王だしなぁ…信用できないよね…」


 茜が迷いながら歩いていると、突然、周囲が暗くなり、どこからともなく低い笑い声が響いてきた。


「ククク…お前、やっぱり俺に興味があるみたいだな?」


「え!? 魔王!?」


 茜は驚いて辺りを見回すが、誰もいない。それなのに、確かにあの魔王の声が聞こえる。どうやら彼は魔力で自分に話しかけているらしい。


「さっきは断ったけど…今度は本気で助けてやろう。さぁ、俺の城に来い」


「え、また? 今度こそ怪しいでしょ!?」


 しかし、次の瞬間、足元の地面が崩れ落ち、茜は急激に下へと吸い込まれていった。


「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇ!」


 落ちた先は真っ暗な空間。目が慣れてきた頃、茜の前に浮かび上がったのは、まるでファンタジー映画に出てくるような荘厳な魔王の城だった。


「え、なんで!? どうしてこんなことに…」


 茜は呆然と立ち尽くしながらも、仕方なく城の中に進むことにした。ドアを開けると、そこには例の魔王が待ち構えていた。


「来たな、茜」


「勝手に連れてこられたんですけど!」


 茜はすかさず突っ込みを入れたが、魔王はまるで気にしていない様子で笑っている。


「まぁ、そんなことはどうでもいい。お前が困ってるって言ってただろ? この俺が願いを叶えてやる」


「でも、私別に困ってるわけじゃないし…っていうか、魔王が叶える願いなんてロクなことないでしょ」


 茜は警戒しながら後ずさるが、魔王はニヤリと笑って椅子に座り、手を振るだけで周囲に高級そうな料理がずらりと並んだ。


「どうだ? まずは腹ごしらえでもしてから考えたらどうだ?」


「え、何これ…こんな豪華な料理、初めて見た!」


 目の前に広がる料理の数々に茜は一瞬心を奪われる。焼きたてのパンに、キラキラと輝くフルーツ、柔らかそうな肉料理まで。どれもこれも匂いだけで美味しさが伝わってくる。


「…でも、これは絶対に怪しいやつだ」


 茜は一旦目を閉じて、自分を冷静に保とうとする。しかし、魔王の甘い言葉が続く。


「お前、元の世界に帰りたいんだろう? 俺なら簡単に帰してやれる」


「え、帰れるの!? ほんとに!?」


 茜は一瞬喜びかけるが、すぐに思い出した。「いやいや、私の体ってもう火葬されてるんだよね…それってどうなるの?」


 魔王は不敵に笑って答えた。


「その心配は不要だ。お前にはもっと別の体を用意してやる。何なら、今より強い体だって作れるぞ」


「強い体って…どんなのよ?」


 魔王は何やら不気味な笑みを浮かべながら手を差し出す。


「さぁ、お前の魂を俺に預けろ。そうすれば全て解決してやる」


「いやいやいや、絶対に怪しいじゃん! それ、魂売るってやつでしょ!?」


 茜は急に不安になり、後ずさりしようとするが、背後から壁が迫ってきた。逃げ道がない。


「これで終わりか…」


 茜は覚悟を決めたその瞬間、突然、城全体が揺れ、激しい音と共に扉が勢いよく開いた。


「おいおい、待たせたな」


 そこに現れたのは――アレックスだった。


「アレックス!? なんでここに!?」


 驚く茜にアレックスは余裕の笑みを浮かべて答えた。


「お前のいる場所は大体わかるんだよ。それより、こんな古典的な誘い方に騙されるところだったな」


「だ、騙されてないもん! ただ、ちょっとどうしようか迷ってただけで…」


 そう言いながら、茜は心の中でホッとした。アレックスが来てくれたことで、どうにか助かりそうだ。


「この魔王、簡単には倒せないけどな。でも、俺とお前なら…」


「う、うん! 一緒にやっつけよう!」


 二人は再びタッグを組み、目の前に立ちはだかる魔王と対峙する。


 +++++


 次回予告:「魔王を倒そうとしたら思わぬ方向に行った件」

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