第25話「神様が渡してきた新しいアイテムがトンデモな件」


「さて、これでリモコンは終わりっと」


 神様が悠々と指を鳴らし、茜とアレックスの手にあったリモコンが消え去った。彼は肩をポキポキと鳴らしながら、ふぅっと息をつく。


「よし、代わりに何か別のアイテムをあげよう」


「ちょっと待って! さっきのリモコンみたいに、また大変なことになるんじゃない?」


 茜は不安そうに神様を見つめる。リモコン騒動が一段落したばかりだというのに、今度はまた新しいトラブルの種を撒かれそうで、内心ドキドキしていた。


「大丈夫、大丈夫。今度のはもっとシンプルだし、使い方も簡単だよ。はい、これ」


 神様が懐から取り出したのは……なんと、一見ただの「鏡」だった。小ぶりで、持ち運びに便利そうだが、それ以外は特に普通に見える。


「え? 鏡?」


 茜は眉をひそめ、アレックスも首をかしげる。リモコンの次は鏡だなんて、いったいどんな効果があるというのか。


「この鏡はね、自分の『理想の姿』を反映してくれるんだ。ほら、見るだけで美しい姿が見えるって最高だろ?」


 神様は楽しそうに説明を続けたが、茜はやっぱり怪しんでいた。そんな都合の良すぎるアイテム、何か裏があるに違いない。


「本当にそれだけ? 変なこと起きない?」


「いやいや、今回はちゃんとしたアイテムだから。使ってみればわかるって!」


 茜は半信半疑ながらも、鏡を手に取り、ゆっくりと自分の顔を映してみた。


「……えっ?」


 映った自分の姿に、思わず声を漏らしてしまう。普段の自分よりも、ずっと美しい――髪は艶々で、目元もぱっちり。まるでアニメのヒロインみたいになっていた。


「うわっ、すげぇ! 茜が超美人に見える!」


 アレックスが隣で感嘆の声を上げる。彼も茜の変わった姿に驚いているようだった。


「これ……本当に私?」


 茜は少し戸惑いながら鏡をじっと見つめた。自分がこんなにも美しく見えるなんて、まるで夢のようだ。しかし、次の瞬間――


「うわっ!」


 突然、アレックスが変な声を上げた。驚いて彼を見ると、なんと彼も鏡に映った自分を見ていた。だが、そこに映っているのは、筋肉ムキムキのアレックスだった。


「な、なんだこれ!? 俺、こんなにマッチョじゃないぞ!」


 アレックスがパニックに陥りながら、自分の体を確かめる。鏡の中では完璧な肉体美を誇る彼だが、現実の彼はそのままの姿。鏡に映るだけで、実際には何も変わらないのだ。


「ちょ、ちょっと待って! これ、見た目が理想になるだけで、実際には変わらないってこと?」


 茜はようやく神様の言葉の意味を理解した。この鏡は、ただ「自分の理想」を映し出すだけ。実際に体が変わるわけではないのだ。


「そうそう。だから、自分が理想とする姿を見るだけで満足できるんだ。いいだろ?」


 神様は得意げに笑っているが、茜とアレックスはどちらも複雑な表情だった。


「いや、これって……ただの自己満足じゃない?」


「うん、見てるだけで何か役に立つわけじゃないし……」


 茜ががっかりしていると、アレックスがふと思いついたように、ニヤリと笑った。


「でも、これを使えば、他の人を驚かせられるんじゃないか?」


「え?」


「だって、理想の姿を映し出せるなら、俺たちをめっちゃ強そうに見せたり、美人に見せたりできるだろ? そしたら、敵だってビビるに違いない!」


 アレックスの提案に、茜も思わず納得してしまう。確かに、鏡をうまく使えば相手を欺くことができるかもしれない。


「それ、ちょっと面白いかも……!」


 茜はすっかりそのアイデアに乗り気になり、次の冒険でこの鏡を使ってみることに決めた。


 次回予告:「魔王が登場したけど、理想の姿が大暴走した件」

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