第24話「リモコンを使いすぎたら大変なことになった件」
「おい、茜、それはさすがにやりすぎだろ!」
アレックスが顔を真っ赤にして叫んでいる。いつも陽気で無邪気な彼が、こんなに怒ったのを見るのは初めてだった。
「だって、アンタが悪いんじゃない!」
茜も負けじと叫び返す。リモコンを握りしめながら、彼女は怒りで手が震えていた。
ことの発端は、ほんの些細なことだった。リモコンを手に入れてからというもの、アレックスは面白がって頻繁に使っていた。時間を早送りしたり、巻き戻したりするのが楽しいのか、何でもかんでもリモコンで解決しようとする彼に、茜は少しずつ苛立ちを募らせていた。
「もういい加減にして! 普通に問題を解決することも大事でしょ?」
「だってリモコンがあれば、わざわざそんな面倒なことしなくていいじゃん!」
アレックスの軽い返事に、茜の我慢は限界に達した。
その日、茜はリモコンを奪い返し、思い切って「巻き戻し」のボタンを押した。アレックスが失敗した場面をもう一度やり直して、今度こそ彼に学ばせようと思ったのだ。
しかし、アレックスはそれを「嫌がらせ」と受け取ったらしい。
「お前、自分が正しいって思って、俺を巻き戻したのか?!」
「そんなわけないでしょ! ただ、同じ失敗を何度も見たくないだけ!」
「それ、同じことだろ!」
アレックスは怒りで声を荒げる。茜は「もう知らない!」と言わんばかりにリモコンを投げ捨てた。
その瞬間、リモコンが地面にぶつかり、「早送り」ボタンが誤って押された。
世界は再び急速に動き始めた。街を行き交う人々、流れる雲、木々の葉の揺れさえも、全てがものすごいスピードで進んでいく。
「うわっ、またやっちゃった……」
「何してんだよ! このままじゃ世界がぐちゃぐちゃになるだろ!」
茜とアレックスは慌ててリモコンを拾い上げ、元に戻そうとしたが、どうやっても止まらない。パニックになった二人はお互いに文句を言い合いながら、ボタンを押しまくった。
「もう、どうしてこんなに押しづらいのよ!」
「お前がイライラして投げたからだろ!」
「あんたが勝手に使いすぎたからでしょ!」
二人は必死にボタンを押し続けたが、何をしても状況は改善しなかった。時間が早送りされたまま、まるで巻き戻すことも停止することもできなくなっていた。
「……どうするの、これ」
茜はついに呆然と立ち尽くし、リモコンを手放した。アレックスも頭を抱え、今さらながら後悔しているようだった。
「悪かったよ、茜……俺が調子に乗りすぎた」
「……私もごめん。もっと冷静に話せばよかった」
二人はしばし沈黙の中で立ち尽くした。早送りされた世界の中で、ただ時間だけが流れていく。止まらない時間、修復不可能な状況――彼らは一体どうすればいいのか途方に暮れていた。
その時、またしても白い光が差し込み、例の神様が現れた。
「おーい、二人とも、なに仲違いしてんだ? せっかくのリモコンなのに、使いこなせてないじゃん」
「神様……!」
茜は思わず駆け寄ったが、神様は手を振りながら軽くため息をついた。
「いやぁ、巻き戻しとか早送りとか、そんな便利すぎる機能に頼っちゃダメだよ。結局、自分たちで問題解決しなきゃ意味ないんだから」
「そ、それはわかってるんですけど……」
「ま、今回は特別に助けてやるよ。ただし、これでリモコンはおしまいだからな」
神様はパチンと指を鳴らし、世界がゆっくりと元の速度に戻っていった。茜もアレックスも、安堵の息をついた。
「でも、もうリモコンは使えないのか……」
「仕方ないだろ、茜。自分たちで頑張らなきゃ」
アレックスはしんみりとした顔で言ったが、茜はどこかスッキリした気持ちだった。リモコンに頼りすぎたことが、二人の関係をおかしくしてしまったのだと気づいたからだ。
「次からはもっと普通にやろうよ。面倒でも、自分たちで解決するってことで」
「そうだな。リモコンなしでも、俺たちならやれるさ」
二人はようやく和解し、再びこの異世界で新たな冒険に向かう決意を固めた。
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次回予告:「神様が渡してきた新しいアイテムがトンデモな件」
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