第16話「福引きで世界を救うなんてそんなことありえない件」
「次の任務はこれだ」
またもや王様から手渡された任務リスト。茜はすでに嫌な予感しかしなかった。王様の依頼には、毎回謎の方向性があるからだ。今回は――
「商店街の福引き?」
「いやいや、福引きって! 勇者の仕事じゃないでしょ!」
茜は思わず声を荒げた。だが、王様はまったく気にせず説明を続ける。
「これは重要な任務だ。商店街の福引きで、最強のアイテム『伝説の剣』が当たるという情報が入ったんだ。これを手に入れれば、君たちはもっと強くなれる」
「でも、福引きでしょ……? 勇者の使命感がゼロすぎる」
茜はもうどうでもいいや、という表情でリストを見つめた。アレックスは、何かを考え込んでいる。
「でもさ、もし『伝説の剣』が本当に当たるなら、それはそれで面白そうじゃないか?」
「……まあ、確かに」
茜は渋々納得し、二人は商店街へと向かうことにした。
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商店街は、地元の人々で賑わっていた。福引きのブースの前には長い行列ができており、店員が「大当たり!」とか「ハズレ!」とか元気よく叫んでいる。
「これが勇者の任務だなんて、ほんとやってられないよね」
茜は溜息をつきながらも、列に並んだ。アレックスはすでに楽しそうに店の景品を眺めていた。
「おっ、茜! 見てよ! 一等が『伝説の剣』、二等が『不死鳥の羽』、三等が……おっと、『勇者セット』だって!」
「勇者セットって、なんだろうね……もしかして、タオルとか?」
「いやいや、ちゃんとした装備かもしれないぞ」
アレックスは何の疑いもなくウキウキしているが、茜は現実的だった。
「でも、福引きなんて当たるわけないし……結局ハズレでしょ」
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順番が来て、茜がガラガラを回した瞬間、どこからともなく不思議な音が鳴り響いた。
「カラカラカラ……ポンッ!」
店員がびっくりした顔で、金色の玉を見つめている。
「……おめでとうございます! 一等の『伝説の剣』が当たりました!」
「はっ……?」
茜もアレックスも一瞬、状況が飲み込めず、呆然とした。
「本当に当たっちゃった……」
「マジかよ! やったじゃん茜! これで俺たちは最強の勇者だ!」
アレックスは歓喜の声を上げ、茜の肩を叩いたが、彼女はまだ信じられない様子だった。
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店員が持ってきた「伝説の剣」は、一見すると普通の剣にしか見えなかった。茜は訝しげにそれを受け取り、剣の刃をじっと見つめた。
「これ、本当に『伝説』なの? なんか、普通の剣に見えるんだけど……」
「いやいや、そういうのが意外と強いんだって!」
アレックスはやけにポジティブだが、茜は剣を振り回してみるものの、特に魔法的な反応はない。
「やっぱり、ただの剣じゃん……。これでどうやって世界を救うのよ?」
「まあまあ、これからが本番だって! 何か隠された力があるに違いない!」
アレックスが無駄に前向きに剣を持ち上げて振っていると、突然、剣が光り始めた。
「え、何これ!?」
「おお! やっぱり伝説の剣だ!」
剣から放たれる眩しい光に、茜とアレックスは思わず目を細めた。光が収まると、剣の形が変わっていた――その姿は、なぜか巨大なスプーンのようになっていた。
「……スプーン?」
「ちょっと待って、これどう見ても剣じゃないよね!?」
茜は思わず声を荒げ、スプーンを振り回すが、どう見てもただの食器にしか見えなかった。
「これで何をどうしろっていうのよ!」
「いや、きっとこのスプーンにも何か秘められた力が……!」
アレックスが必死に言い訳をするが、茜は呆れ果てていた。だが、その時、店の中から再び店員の声が響いた。
「おめでとうございます! 二等も出ました! 不死鳥の羽です!」
「えっ、まさか……」
茜とアレックスが振り返ると、今度はアレックスの手元に「不死鳥の羽」が渡された。どう見てもただの羽だった。
「これ、どうやって使うの?」
「いや、きっと飛べるとか……?」
二人は顔を見合わせ、ついに同時に笑い出した。
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「伝説の剣がスプーンで、不死鳥の羽がただの羽って、どういうことなの……」
「でも、まあこれが俺たちの冒険だよな!」
笑い合いながら、二人は福引きの景品を抱えて、商店街を後にした。次の任務はもっとまともであることを祈りつつ――。
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次回予告:「勇者は料理バトルでも勝たないといけない件」
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