第17話「勇者は料理バトルでも勝たないといけない件」


 商店街からの帰り道、茜とアレックスは次なる任務に向けた通知を受け取った。今度こそまともな依頼だろうと期待しつつ、メッセージを開いてみると――


「次の任務は料理バトル?」


「またしても何かおかしい……」


 茜は即座に呆れた顔を浮かべた。前回の福引きがあまりに謎だったため、今回は少しはまともな冒険を期待していたのに、どうやらその希望は打ち砕かれたらしい。


「でも、料理バトルってちょっと面白そうじゃないか? 勇者が料理で戦うなんて新しいし!」


「いや、勇者が料理で戦う意味って……」


 茜は疲れたように肩を落としながら、依頼の詳細を確認した。そこには衝撃の一文が――


『料理バトルに勝てば、世界を救える』


「えっ、世界救うのが料理勝負……?」


 思わず突っ込みたくなる設定に、茜は言葉を失ったが、アレックスはなぜか楽しそうだ。


「よし! じゃあ俺たち、世界を救うために料理バトルを頑張ろうぜ!」


「そんな簡単に言うけど、料理ってそんなに甘くないから……」


 +++++


 指定された場所は、王宮の厨房ではなく、謎の古びたレストラン。店の中に入ると、そこには異世界の料理人たちが集結していた。


「おお……なにこれ、料理人の祭典? 勇者が来る場所じゃないよね」


 茜は周囲を見渡しながら、すでに帰りたくなっていた。参加者は皆、料理勝負にかける熱意がすごい。鍋を叩きながら気合いを入れる者、フライパンを片手に「俺こそが世界一」と豪語する者――どこを見ても、ただの戦場だ。


「え、茜。俺たち、どんな料理作る?」


「いやいや、そもそもなんで私たちが料理対決に参加してるのか分からないんだけど!」


 困惑する茜をよそに、アレックスはすっかりやる気満々だ。さっさと食材を選び、手際よく包丁を使い始めた。


「アレックス、料理できたの?」


「もちろん! 前にちょっとだけやったことあるし、あっちにいた頃Y●uTubeで見たんだ」


「……不安しかない」


 +++++


 茜も仕方なく準備を始めたが、周りの料理人たちは本格的な料理を次々に仕上げていく。煮込み料理や豪華なステーキ、スイーツまで――見るだけで涎が出そうな料理がずらりと並ぶ。


「これ絶対無理だよ……どうやって勝つの?」


 茜がそう思い始めたその時、突然、厨房の奥から現れたのは――


「おいおい、そこの勇者たち! わしがジャッジするぞ!」


 現れたのは、豪華なローブを着た神様だった。神々しいオーラを放つかと思いきや、どこかリラックスした雰囲気で、目には明らかに「仕事面倒」な光が宿っていた。


「神様!? どうしてここにいるの?」


「いや、なんとなくじゃ。退屈だったし、飯でも食うかと」


「な、なんとなくで世界を救うバトルのジャッジしないでよ!」


「まあまあ、細かいことはいいじゃろ。料理バトル、わしがしっかり見届けるぞ」


 神様は気軽にそう言うと、早速用意された料理に手をつけ始めた。どうやら、世界を救うための料理バトルなのに、彼にとってはただのランチタイムのようだ。


 +++++


 時間が迫り、茜とアレックスの料理もいよいよ仕上がる。茜が作ったのは――


「カレー……?」


「だって、時間がなくてこれしかできなかったのよ!」


 一方、アレックスは――


「フルーツサンド?」


「見た目がいいだろ? これなら勝てる!」


 完全に勝負の方向性を見失っている二人。神様はそんな二人の料理をじっくりと観察していた。


「ふむ……カレーか。普通じゃな」


「そんな、カレー普通で何が悪いのよ!」


「そしてフルーツサンドか。見た目は可愛いのう」


「でしょ! 可愛さで勝負なんです!」


 神様は一口ずつ味見をし、しばらく黙ったまま目を閉じた。


「ふむ……どちらも悪くないが、これはなかなか面白い結果じゃ」


「どういう意味ですか?」


 茜とアレックスは顔を見合わせたが、神様の言葉には何か意味深な響きがあった。そして、神様はゆっくりと立ち上がり――


「この勝負、引き分けとする!」


「え、引き分け!?」


「そうじゃ。どちらも素晴らしかったが、世界を救うにはまだ早いかもしれん。精進するがよい」


 神様は軽く笑いながら、空を見上げた。まるで何事もなかったかのように、茜とアレックスを見送る。


「……いや、結局何だったの、この件」


「まあ、楽しかったし、いいじゃないか!」


「良くない!」


 茜の叫び声が響き渡る中、次なる任務へと向かう二人だった。


 +++++


 次回予告:「伝説の勇者が突然消えて、私ひとりで嬉しいような寂しいような何とも言えなかった件」

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