第12話「勇者、愛を学んだと思ったら次はやっぱりバイトだった件」
「よくやった! これで君たちは勇者としての資格を手にした!」
王様は笑顔で茜とアレックスを見つめる。だが、その笑顔とは裏腹に、茜は困惑していた。
「え、これで本当に合格なの?」
スライムに愛を注ぐだけで勇者として認められるなんて、なんだか軽い気がした。そんな思いを抱えながらも、茜はただ黙って王様の言葉を聞くしかなかった。
「いやあ、君たちには期待してるよ。今後、色々な任務が待っているからね」
「任務……?」
王様が言ったその言葉に、茜は不安を感じた。今までの戦いとはまた違った、何かとんでもないことが待っている気がしてならなかった。
「では、早速次の任務だ! 二人にはこれから、勇者として世界中を旅してもらう」
「えっ、まさか魔王討伐とか?」
アレックスが期待を込めた声で質問すると、王様は微笑んで首を振った。
「いや、まずは基本的なことからだ。二人にはバイトをしてもらう」
「バイト!?」
茜とアレックスは同時に叫んだ。勇者に任される仕事がバイトって、どう考えてもおかしい。
「いやいや、勇者って魔王を倒すとか、そういうことじゃないの?」
茜は思わず疑問を投げかけるが、王様はそのまま涼しい顔で説明を続けた。
「もちろん、いずれは魔王討伐もある。しかし、それには資金が必要だろう? 勇者だってただで動けるわけじゃない。だから、まずはバイトで稼いでもらうんだよ」
「……ええええ」
「では、ここにバイト先のリストがある。好きなものを選んでくれ」
茜とアレックスの前に、なぜか急にリストが差し出された。そこには、どこかで見たようなバイトの名前が並んでいる。
+++++
ーーバイト先リストーー
1. ファンタジーレストラン「ドラゴンの胃袋」
2. モンスター牧場の飼育員
3. 迷宮ガイドツアー
4. マジックショップの店員
5. 秘密結社のアルバイト
「いや、なんで勇者がレストランとか迷宮のガイドをしなきゃいけないのよ!」
茜は思わず声を上げたが、王様はどこ吹く風だ。
「何事も経験だ。どんなことでも学びがあるからな。それに、この世界の経済を回すには君たちの協力が必要なんだよ」
「勇者って、経済の一部だったの……?」
「さあ、選べ。どのバイトがいい?」
アレックスは真剣な顔でリストを眺めていたが、茜はどうしても納得がいかない。
「ちょっと待って、どう考えてもおかしいでしょ。私たち、勇者になったんだよ? なのに、レストランでバイトとかありえない!」
茜が抗議していると、横でタクトが軽く口を挟んだ。
「まぁまぁ、茜ちゃん。最初はこんなもんさ。まずは地に足つけて働いてみるってのも悪くないよ」
「それに、これってどれもそこそこ楽しそうだし」
アレックスが真面目にリストを見つめながら言う。
「楽しそう……? それ本気で言ってるの?」
「ほら、モンスター牧場とかめちゃくちゃワクワクするじゃん。ドラゴンに餌やりとか、きっといい経験になるよ」
「餌やりって……なんでそんなに前向きなの!?」
茜は呆れてしまったが、アレックスは目を輝かせている。
+++++
結局、茜とアレックスは「モンスター牧場」の飼育員を選ぶことになった。
牧場に到着すると、広大な敷地が目の前に広がっており、様々なモンスターたちがのんびりと草を食べていた。
「おお、すごい! 本当にドラゴンがいる!」
アレックスは目を輝かせて興奮しているが、茜は半ばあきれ顔だ。
「なんで私がドラゴンの世話をすることになるのよ……」
「さあ、やるぞ茜! 冒険はいつもこういうところから始まるんだ!」
アレックスは元気いっぱいに牧場の作業着に着替え、モンスターたちに近づいていく。茜も仕方なくそれに続いたが、どうしても腑に落ちない。
「そもそも勇者の仕事って何なのよ……」
そんな愚痴をこぼしていると、突然背後から大きな影が現れた。振り返ると、そこには巨大な牛のようなモンスターが立っていた。
「えっ!? 何このモンスター、でかっ!」
「おっと、それは『モーモーゴーレム』だね。草食だから大丈夫だよ」
タクトが説明をしているが、その落ち着いた態度に茜はますます不安を感じた。
「草食って言われても、これに餌やりするの!? 絶対無理!」
茜が後ずさりしようとした瞬間、モーモーゴーレムは大きな鼻を鳴らしながら近づいてきた。
「うわあ! 近づかないで!」
しかし、モーモーゴーレムは全く意に介さず、茜の肩に巨大な頭を乗せて甘えてくる。
「……ちょっと、重いんだけど」
「ほら、優しくしてあげれば大丈夫さ。愛だよ、愛」
またしてもタクトのいい加減なアドバイス。茜は半ば諦めながら、ゴーレムの頭を軽く撫でてやった。
「うーん……愛が大事なのは分かったけど、これじゃまるで勇者じゃなくてモンスターのお世話係じゃない?」
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作業を終えた夕方、茜とアレックスは疲れ果ててベンチに腰を下ろしていた。
「思ったよりきついな……」
「まぁ、でもこれも立派な勇者の訓練だよ、たぶん」
アレックスは汗を拭きながら笑うが、茜はどうしても納得できない。
「本当にこれで魔王を倒せるようになるのかな……」
そのとき、ふとタクトが近づいてきて、ぽんと茜の肩を叩いた。
「安心しなよ。これも一つの経験だし、いつか役に立つさ。次はもう少し冒険らしい任務が来るかもね」
タクトの言葉を信じていいのかどうか――茜は複雑な気持ちで、夕焼けの空を見上げた。
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次回予告:「勇者、冒険かと思ったら今度は迷宮ガイドだった件」
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