第13話「勇者、冒険かと思ったら今度は迷宮ガイドだった件」
「次の任務はこれだ!」
王様が再びリストを持ってきた。
「今度こそ本格的な冒険だろうね!」と、アレックスは期待を胸にリストに目をやった。茜も内心、今度こそまともな任務だろうと期待していた。
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ーー任務リストーー
1. 迷宮ガイド
2. ドラゴンの卵の配送
3. 魔法のホウキの試運転
「またバイト感あるな……」茜はため息をついた。だが、アレックスは目を輝かせていた。
「迷宮ガイド! これだよ茜! 迷宮に入るんだ、やっと勇者らしい任務が来た!」
「いやいや、ガイドって……。ただの観光案内じゃない?」
「何言ってんの! ガイドってことは迷宮の中に入って、お客さんを守るんだよ。これこそ冒険だ!」
アレックスはすでにやる気満々だった。茜は頭を抱えつつも、もうどうでもよくなり、結局迷宮ガイドの任務を引き受けることにした。
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数日後、茜とアレックスは迷宮の入口に立っていた。広がる迷宮の前には、観光客らしき人々が列を作っている。
「えーっと、今日は初心者向けの迷宮ツアーです。命の危険はありませんので、気軽に参加してくださいねー」
茜は、迷宮前に立って案内しているガイドを見て、ますます違和感を覚えた。
「これ、本当に冒険なの?」
「いや、冒険だよ!」とアレックスは自信満々に言う。「迷宮の中にはモンスターもいるし、トラップだってあるかも!」
「でも、観光客向けの迷宮って言ってたよね? そんな危険な場所なのに?」
茜の疑問は尽きなかったが、アレックスはもう聞く耳を持っていなかった。勇者の名にかけて、迷宮に突入する気満々だ。
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ツアーが始まった。茜とアレックスが先導する中、観光客たちがワクワクした表情でついてくる。迷宮の内部は思った以上に普通だった。トラップも見当たらず、モンスターも出現しない。
「これ、本当に迷宮?」
茜は再び疑問を口にした。だが、アレックスはテンションが下がらない。
「ほら見て、あの壁! きっと何かのヒントが書かれてるはずだ!」
アレックスは壁に近づき、手を触れた。すると、突然ガシャンという音がして、床が少しだけ沈んだ。
「うわっ!」
茜が驚いて叫ぶが、次の瞬間、天井から水が噴き出した。
「ええっ!? 何これ!?」
突然の出来事に観光客たちも大騒ぎ。茜とアレックスはびしょ濡れになりながらも、なんとか避けようと必死だ。
「これは……罠なのか!?」
アレックスが叫びながらも笑っているのが不思議だった。結局、何のモンスターも出てこないまま、ただの水攻めに遭っただけだった。
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その日の迷宮ツアーは、観光客全員がびしょ濡れになって終了した。
「これが冒険……だったの?」
茜は放心状態で呟いた。アレックスは疲れ果てながらも、まだどこか満足そうだった。
「いやあ、なかなか刺激的な一日だったな」
「刺激的すぎるでしょ……。もう少し普通の任務はないの?」
その時、ふと視線を感じて振り返ると、遠くからタクトが手を振っているのが見えた。
「タクト! なんでここに?」
「いやあ、ちょっと様子を見に来たんだよ。どう? 楽しんでる?」
「楽しんでるって……何が楽しいのよ! これ、勇者の仕事じゃないでしょ!」
「いやいや、これも勇者の一部さ。勇者だって、皆の笑顔を守るためにガイドだってできるんだよ」
タクトのその適当な言い分に、茜は呆れてものも言えなかった。だが、そんなタクトの言葉に観光客たちは拍手を送っていた。
「いや、私たち迷宮のガイドなんてやってられないよ! 勇者だよ、私たち!」
「大丈夫大丈夫、次こそ本物の冒険が待ってるさ」
タクトはそう言い残して、悠々と去って行った。
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その日の帰り道、茜とアレックスは再び王様の元へ戻った。次の任務こそはと期待を込めて王様を見つめるが、またしても彼はのんびりとリストを取り出した。
「次の任務だが……」
茜はもう先が見えないことを感じた。
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次回予告:「勇者、魔法のホウキでひとっ飛びな件」
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