第13話「勇者、冒険かと思ったら今度は迷宮ガイドだった件」


「次の任務はこれだ!」


 王様が再びリストを持ってきた。


「今度こそ本格的な冒険だろうね!」と、アレックスは期待を胸にリストに目をやった。茜も内心、今度こそまともな任務だろうと期待していた。


 +++++


 ーー任務リストーー


 1. 迷宮ガイド

 2. ドラゴンの卵の配送

 3. 魔法のホウキの試運転




「またバイト感あるな……」茜はため息をついた。だが、アレックスは目を輝かせていた。


「迷宮ガイド! これだよ茜! 迷宮に入るんだ、やっと勇者らしい任務が来た!」


「いやいや、ガイドって……。ただの観光案内じゃない?」


「何言ってんの! ガイドってことは迷宮の中に入って、お客さんを守るんだよ。これこそ冒険だ!」


 アレックスはすでにやる気満々だった。茜は頭を抱えつつも、もうどうでもよくなり、結局迷宮ガイドの任務を引き受けることにした。


 +++++


 数日後、茜とアレックスは迷宮の入口に立っていた。広がる迷宮の前には、観光客らしき人々が列を作っている。


「えーっと、今日は初心者向けの迷宮ツアーです。命の危険はありませんので、気軽に参加してくださいねー」


 茜は、迷宮前に立って案内しているガイドを見て、ますます違和感を覚えた。


「これ、本当に冒険なの?」


「いや、冒険だよ!」とアレックスは自信満々に言う。「迷宮の中にはモンスターもいるし、トラップだってあるかも!」


「でも、観光客向けの迷宮って言ってたよね? そんな危険な場所なのに?」


 茜の疑問は尽きなかったが、アレックスはもう聞く耳を持っていなかった。勇者の名にかけて、迷宮に突入する気満々だ。


 +++++


 ツアーが始まった。茜とアレックスが先導する中、観光客たちがワクワクした表情でついてくる。迷宮の内部は思った以上に普通だった。トラップも見当たらず、モンスターも出現しない。


「これ、本当に迷宮?」


 茜は再び疑問を口にした。だが、アレックスはテンションが下がらない。


「ほら見て、あの壁! きっと何かのヒントが書かれてるはずだ!」


 アレックスは壁に近づき、手を触れた。すると、突然ガシャンという音がして、床が少しだけ沈んだ。


「うわっ!」


 茜が驚いて叫ぶが、次の瞬間、天井から水が噴き出した。


「ええっ!? 何これ!?」


 突然の出来事に観光客たちも大騒ぎ。茜とアレックスはびしょ濡れになりながらも、なんとか避けようと必死だ。


「これは……罠なのか!?」


 アレックスが叫びながらも笑っているのが不思議だった。結局、何のモンスターも出てこないまま、ただの水攻めに遭っただけだった。


 +++++


 その日の迷宮ツアーは、観光客全員がびしょ濡れになって終了した。


「これが冒険……だったの?」


 茜は放心状態で呟いた。アレックスは疲れ果てながらも、まだどこか満足そうだった。


「いやあ、なかなか刺激的な一日だったな」


「刺激的すぎるでしょ……。もう少し普通の任務はないの?」


 その時、ふと視線を感じて振り返ると、遠くからタクトが手を振っているのが見えた。


「タクト! なんでここに?」


「いやあ、ちょっと様子を見に来たんだよ。どう? 楽しんでる?」


「楽しんでるって……何が楽しいのよ! これ、勇者の仕事じゃないでしょ!」


「いやいや、これも勇者の一部さ。勇者だって、皆の笑顔を守るためにガイドだってできるんだよ」


 タクトのその適当な言い分に、茜は呆れてものも言えなかった。だが、そんなタクトの言葉に観光客たちは拍手を送っていた。


「いや、私たち迷宮のガイドなんてやってられないよ! 勇者だよ、私たち!」


「大丈夫大丈夫、次こそ本物の冒険が待ってるさ」


 タクトはそう言い残して、悠々と去って行った。


 +++++


 その日の帰り道、茜とアレックスは再び王様の元へ戻った。次の任務こそはと期待を込めて王様を見つめるが、またしても彼はのんびりとリストを取り出した。


「次の任務だが……」


 茜はもう先が見えないことを感じた。


 +++++


 次回予告:「勇者、魔法のホウキでひとっ飛びな件」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る