第7話「勇者、バイト掛け持ちする件」
「もう、これ以上借金取りに追われる生活は嫌だ!」
茜は森の中を必死に走りながら叫んだ。後ろでは借金取りの男たちが大きな声で「返済日が過ぎてるぞ!」と叫んでいる。つい最近出会った伝説の勇者アレックスも一緒に逃げているが、何の役にも立っていない。
「伝説の勇者なら、なんかこう……魔法とかでどうにかできないんですか!?」
「いや、実は……もう全然魔力が残ってなくて……」
「伝説、どうなってんだよ!?」
茜は泣きたくなりながらも、ひたすら逃げ続けた。やがてどうにか借金取りの追撃を振り切り、町外れの安全な場所までたどり着く。
「ふぅ……もう借金とか聞くだけで胃が痛い……」
「だよなぁ、でもそろそろまともに働かないとマズいんじゃないか?」
アレックスが肩で息をしながら言う。茜もこのまま逃げ続けるのは限界だと悟っていた。
「確かに……もう魔王を倒して報酬をもらうとか、そんな悠長なこと言ってられないし、まずは生活費を稼がないと……」
というわけで、茜とアレックスは町でバイトを探すことにした。最初に立ち寄ったのは、とある大きな酒場。勇者であることを生かして働ける場所がないか聞いてみると、マスターがすぐに答えた。
「おう、ちょうど今、人手が足りてなくてな。勇者だろうがなんだろうが、働きたいなら歓迎だぜ。」
「やった! じゃあ、ここで働きます!」
「俺も……一緒にいいか?」
「ん? お前は何ができるんだ?」
マスターがアレックスをじろりと見た。伝説の勇者という割に、彼の姿はどこかしまりがなく、ただの怠け者に見える。
「まあ、皿洗いなら得意だ。」
「……皿洗いの伝説とか聞いたことないけどな。まあいい、働け。」
こうして、茜はウェイトレス、アレックスは皿洗いという形で酒場でのバイトを始めた。茜は「勇者」であることを隠しながら、接客や注文を取る仕事をこなしていた。
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「いらっしゃいませ~! ご注文は?」
茜は笑顔で客に対応し、慣れないながらも精一杯頑張っていた。客は次々と料理や飲み物を注文していく。ところが、働いていると早速問題が発生する。
「お前、勇者だろ? 魔王を倒してくれよ!」
酔っ払った客が、茜の姿に気づき、絡んできた。
「え、ちょ、そんなこと言われても……」
「いやいや、世界を救う前にさ、まず俺のつまみ持ってきてくれよ!」
「はいはい、ただいまお持ちします!」
茜は勇者らしさを完全に捨て、ただのバイトとして仕事に徹した。ところが、次々と客が酔っぱらっては彼女に絡んでくる。
「なぁ、勇者ってもっとカッコいい装備してるんじゃないの?」
「いや、これはただのエプロンですから!」
「おい、あの伝説の勇者アレックスも働いてんのか? 俺、あいつに一度会ってみたかったんだよ!」
「それは裏で皿洗ってますけど、会うほどのことでもないかと……」
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数日後、どうにか酒場での仕事に慣れてきた茜。借金返済のため、さらに別の仕事を掛け持ちすることを考え始めた。
「酒場のバイトだけじゃ返済が追いつかないし……何かもっと儲かる仕事ないかな……」
そう思っていたところ、町外れに「魔物討伐アルバイト募集」という看板を見つけた。
「これだ! やっぱり勇者として戦ってお金を稼ぐのが一番!」
茜は早速そのバイトに応募することにした。魔物討伐の依頼は、地元の村を襲う小さな魔物たちを退治するというもので、そこまで難しい仕事ではなさそうだった。
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翌日、茜は早速魔物討伐の現場に向かった。そこには他の冒険者たちも集まっていたが、彼らはみなプロフェッショナルな装備に身を包んでいた。茜はただのエプロン姿で、どう見てもバイトの途中で来たようにしか見えない。
「え、みんなこんなに本気なんだ……」
周りの冒険者たちは彼女を少し奇異な目で見ていたが、茜は気にせず討伐を開始した。しかし、ここでもまた問題が発生する。
「勇者なんだからもっと強いんじゃないのか!? そいつ、全然役に立ってないぞ!」
「す、すみません! 私、実はまだ魔法とか使えなくて……!」
「なんだそれ!?」
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結局、茜は討伐現場でもあまり役に立たず、再び酒場に戻って皿洗いを手伝うことに。アレックスは相変わらず皿洗いをしながら、何やら不機嫌そうにしていた。
「やっぱり戦いじゃお金は稼げないんだよな……」
「……勇者って、こんなに苦労する職業だったんですね……」
二人はため息をつきながら、借金返済のために今日もひたすら働くのだった。
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次回予告:「勇者、自己啓発セミナーに参加する件」
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