第6話「伝説の勇者が借金取りに追われてた件」


「なんで私、勇者なのにこんなに借金抱えてるんだろう……」


 茜はぼんやりと道端に座り込み、手元の帳簿を見つめていた。前回の宿泊費未払いが原因で、ついに彼女は勇者でありながら「借金取り」に追われる身となってしまったのだ。


「普通、勇者って世界を救うためにもっとリッチな生活できるものじゃないの……?」


 そんなことを呟きながら、ふと頭を上げると、目の前に一人の男性が立っていた。筋骨隆々で、見るからに厳つい雰囲気のその男は、ニヤリと笑ってこう言った。


「やあ、伝説の勇者さんよ。そろそろ借金返してもらおうか?」


 茜の背中に冷たい汗が流れる。この男――見るからに「借金取り」だった。


「え、ちょ、ちょっと待ってください! もう少し、もう少しだけ時間をください!」


 茜は慌てて手を振り、言い訳をするが、男は冷たく一言。


「借金取りに待ったは通用しないんだよ。」


「えぇぇ……!」


 茜は絶望的な気持ちで顔を伏せた。まさか異世界にまで借金取りが存在するとは――しかも、彼らはどこにいても見つけ出してくるのだ。逃げられるわけがない。


「どうしよう、どうしよう……」


 パニック状態に陥りながらも、茜はどうにかこの場を切り抜ける方法を考え始めた。


「そうだ! 私、勇者なんだから、伝説の装備とかで何とかなるんじゃ……!」


 その瞬間、彼女は思い出した。そうだ、自分はかつて「伝説の聖剣」を手に入れたはず。あの剣なら何とか――と思ってポケットから取り出したのは、先日ポキッと折れたままの剣の断片だった。


「そうだった……これ、もう使えないんだった……」


 目の前が真っ暗になる茜。そんな彼女に追い打ちをかけるように、借金取りの男が口を開いた。


「いいか、勇者さん。お前の借金、相当な額になってんだぞ?」


「え、そんなに……?」


「これから毎月利子が増える。返済しなければ、お前の命も――」


「待って、命!? そんなに物騒な話!?」


 +++++


 なんとかその場をやり過ごした茜は、急いで王宮に戻り、王様に相談することにした。どうにかして、この借金を解決しないと――そう思って玉座の間に飛び込んだ。


「王様! ちょっとお願いがあるんです!」


 王様は茜を見て、ニコリと笑いながら答えた。


「おお、勇者よ。何か困っていることがあるのか?」


「実は……借金が大変なことになってまして……助けてもらえませんか?」


「ふむ、借金か。だが、それはお前自身の責任であろう?」


「えぇぇぇ!?」


 茜は膝から崩れ落ちそうになった。まさか異世界でもこんなに冷たい対応をされるとは思わなかった。


「しかし、安心するがよい。勇者としての任務を遂行すれば、その報酬で借金も返済できるだろう。」


「それって、要するに魔王を倒せってことですよね……」


 茜はがっくりとうなだれた。魔王討伐は勇者としての使命だが、それだけではなく、今や借金返済のための唯一の方法でもある。


 +++++


 それから数日後、茜は再び街中を歩いていた。借金取りに追われ、どうにか魔王討伐の準備を進める日々だ。しかし、相変わらず手元にはお金がない。


「どうしよう、もう本当に打つ手がない……」


 そんな時、ふと目の前に一人の男性が立っているのに気づいた。その男性は、以前どこかで見たような顔をしている。そう――伝説の勇者、アレックスだ。


「え、伝説の勇者!? 本物ですか!?」


 茜は驚きのあまり声を上げた。彼女の前に立つのは、長い間語り継がれてきた伝説の勇者であるアレックス。彼こそが魔王を一度倒したと言われている人物だった。


「おお、君も勇者か。何か困っているようだね?」


「実は……借金で困ってまして……」


 茜は事情を説明しながら、アレックスに助けを求める。彼ならこの状況を何とかしてくれるかもしれない――そう期待していた。


 しかし、アレックスは少し困ったような顔をして、こう言った。


「実は、僕も借金取りに追われているんだ。」


「えっ……?」


 茜の頭が一瞬真っ白になった。


「どうやら、魔王を倒したときに手に入れたお金も、すっかり使い果たしてしまってね。今じゃ僕も、あちこちから借金をしている身なんだ。」


「えぇぇぇぇ!? 伝説の勇者も借金してるんですか!?」


 茜は絶望の淵に立たされたような気分だった。まさか伝説の勇者までが借金漬けだとは……。


 +++++


 結局、茜はアレックスと共に借金取りから逃げることに。伝説の勇者二人が力を合わせて魔王討伐に向かう――というより、借金取りから逃れるための旅が始まった。


「これって本当に勇者としての冒険なのかな……」


 茜は不安と疑念を抱えながらも、次の目的地へと歩き出す。


 +++++


 次回予告:「勇者、バイト掛け持ちする件」

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