幕間
『いつかはお母さんみたいに、みんなに楽しませられるようなダンサーになりたいです』
テレビのローカルニュースで、俺と同い年くらいの女の子が取材を受けていた。なんだか、大人に言わされているかのような表情と喋り方だ。
この子は数年前に死んだ世界的ダンサーの娘で、ダンスの県大会で優勝したらしい。
名前は――
「曇坂……、みぞれ?」
変わった名前だな……明路に比べれば、そうでもないのかもしれないが。
「おにいちゃん、みぞれって、おてんきのことだよね?」
「そうだよ。よく知ってるな」
「えへへー。おかーさんがおしえてくれたんだ!」
俺が褒めてやると、明路は嬉しそうにそう言った。
「ちなみに明路、みぞれがどういう意味か、知ってるか?」
「えっと、なんだっけ……わかんない……」
声を小さくして、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「みぞれっていうのは、雨が混ざった雪のことだよ」
「あめなのに、ゆきがまざってるの?」
「まあ……そうだな」
雨に雪が混ざってるというのは、少し違う気がするが……、それくらいは誤差の範囲内だろう。そう覚えていても問題はないはずだ。
「それって、ふしぎだね」
「なんで?」
「だって、あめはかなしいけど、ゆきはたのしいよ。かなしいけどたのしいって、ふしぎだよ」
「たしかに……そうか」
二つの違う物が同じ物として共存しているというのは、言われてみれば不思議なものだ。
だがそれは、共存と言えば響きは良いが、悪く言えば「中途半端」ということになってしまうのだろうか。
画面の中の少女をもう一度見ると、ダンスをしているときの映像が流れていた。
インタビューのときとは打って変わって、全身に楽しさがみなぎっているように、俺には見えた。
共存――中途半端。
彼女は内面に、それを宿しているのかもしれない。
目を開けると、窓から日が差しているのが見えた。
昔の夢を、見ていた気がする――けど、思い出せない。
「……ま、いっか」
夢なんて所詮、そんなものだ。
そんなことよりも、現実を見よう。
作戦開始まで、あと少しだ。
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