第四話:異能覚醒、そして旅立ちへ
庭へ木箱を持ち出した僕達。ここなら能力を発動しても、被害は最小限に抑えられるはずだ。
「じゃあ、僕から行くよ」
僕は箱に手のひらを向け、炎を出す技を発動する。
「はぁっ――!」
木の箱に炎が当たるなら、加工でもされていない限り燃えないなんて事はないはず。
(案外時間はかからなかったな……)
と思った途端、次の葵の言葉でその状況は覆された。
「駆! 木箱に炎が効いてない、ずっと弾いてる!!」
「弾いてるって……」
そんな馬鹿な話があるだろうか。眼を凝らしながら炎の出力を下げると……。
「本当だ!」
「そんなバカな!?」
見えない、いや、視覚でギリギリ認識できるくらいの透明な厚いバリアが、炎から箱を守っていた。
「だけど、もっと高い威力を持つ技を撃てば、突破できるかも!」
「待った。駆の炎がダメなら、翔真と文月さんでやっても同じことになる。次は物理的に力を加えてみよう」
僕は火力を強くしようとしたが、大知の言葉を聞いて炎の放出をやめる。すると力を使う前よりも、少しだけ呼吸回数が多くなったように感じた。
この中で身体能力に自信がある者は、パンチ力の翔真、キック力の僕だ。大知は特別力が強いわけではなく、葵も鉄人達との戦いで、接近戦はそれほど得意でないと分かったため、僕と翔真がやることになった。
「早稲田君。電撃は込めないで、生身の拳でね」
「分かってる。行くぞ…………、ウラァっ!!」
翔真は拳を構えて、一息吸って、吐く。そして、瓦割りの勢いで拳を振り下ろした。結果は……?
ピギ――ン!!
「何っ!?」
翔真の物理攻撃さえも無効化した! 勢いが強かったために、翔真はのけぞって、尻餅をついてしまった。
「だぁクソが! どうなってんだ!?」
「生身で殴ってもだめか……」
翔真の生身の拳を
「仕方ない……。全員で壁を壊せるほどの能力を使うんだ!」
僕達の能力で無理矢理壁を壊して、外からこじ開けるしかない!
僕は炎を
「二人とも、行くよ!!」
「ええ!」
「おう!」
僕の掛け声とともに、木箱に一斉攻撃。
三人の力が合わされば、バリアだって壊せるはず。
「やば……、息が苦しく……」
だが僕は先程から炎を出しすぎたせいか、段々息が苦しくなり、若干視界がくらくらしていた。
「しっかりしろ駆! 平気か!?」
「あぁ……、まだ!」
頭も痛くなってきたが、それでも堪えて炎を出し続ける。
(息が苦しくなって頭痛、めまいも……? もしかして!?)
僕の症状にいち早く気づいたのは葵だった。
「駆無理しないで! 死んだら元も子もない!!」
「ありがとう葵……。でも、オレなら大丈夫!」
葵は僕の身体を気遣って注意してくれた。だけど、この時の僕は、症状なんかで止まれなかった。
「それに、ここで謎が解けるんなら……、諦めてられないだろ!!」
息を入れ直して、僕は木箱から張られたバリアに手を触れる。幸い、バリア自体に触れてもダメージはなかった。
「なぁ文月、駆って文月から見てもこんな感じなのか?」
「少なくとも、こんなに真っ直ぐな眼をした駆は今まで見たことがない!」
三人で木箱に攻撃してからしばらく経った頃。バリアが少しだけ、ひび割れ始めてきた。
「よし……、もう少しだ。もう少しでバリアが壊れる!」
葵は最後の矢を冷気を集めてナイフの形に変えて刺す。翔真は再び電撃をチャージ、そして僕は力を掌に一点集中させ、放出。
「「「「行けぇぇぇぇぇ――っ!!」」」」
突き立てた氷のナイフは割れかけたバリアの中心を穿ち、電撃を帯びた拳は突き抜ける勢いで激突、僕の掌に集中したエネルギーは、爆発を起こすと同時に炎となって放出された。
キィィーン! バシュゥゥ――――ン!
……バリアが壊れた。
「バリアが消えた……!」
「しゃあどうだ!」
「やった……! うぅっ……」
しかし能力を使いすぎた反動か、僕は仰向けの体勢でその場にドサッと倒れる。大知がそれを、優しく受け止めてくれた。
「ごめん、無茶しすぎた」
「君ってヤツは……。ほら、深呼吸しな?」
大知に体を支えてもらいつつ、上体を起こす。息を吸って……、吐いて……。深呼吸を数回繰り返すと、少しだけど体調が良くなった気がした。少し水を飲んだら、ふらついた意識もほとんど治った。
「強引な方法とはいえ、これで箱が開くようになったわね」
「だな。開けてみよう」
僕はようやくバリアが消えた木箱を開ける。そこに入っていたのは、黒くくすんだ古びた一冊のトラベラーズノートだった。
「何だこの文字……? 気味悪いや」
大知が最初の一ページを開く。
「うわ、日本語じゃねぇし。何語だこれ」
「見た感じはドイツ語みたいね」
「葵、解読できる?」
「やってみるわ」
葵は大知からノートを受け取り、ドイツ語の暗号を解読しようと読み上げ始めた。
【関係者以外はここからページを進めてはならない。この警告を無視した者は、ページを見た者全員を関係者とみなす】
葵は日本語と英語はお手のものだったけど、まさかドイツ語まで理解できるようになっていたとは思わなかった。
「どうだ?」
「要約すると、『関係者以外は読むな。無視して読んだ場合、全員関係者とみなす』ということね」
「駆の部屋からこれが出てきて、三人が特別な力を使える以上、関係しないことはないだろうね」
大知の言葉を聞いて、僕は頷いて言った。
「覚悟は……できてるよ」
僕はノートの全体を見る。すると、最初のページはドイツ語で警告文が記されていたのに、一つ後のページは日本語だった。
『私は、――能覚――を研究していた者の一人である』
どこか薄れていたり、黒く塗り潰されている文字が気になって消そうとしたが、墨なのか全く消えない。日記としてこのトラベラーズノートを使っていたのだろうか? それにしては年代が古すぎる。が、一旦気にせず続けよう。
『一九四六・六・一五 私は――――醒を目の当たりにした。異――醒とは、個人の性格、特技、及び感情の――から固有の異能力が発現する現象。
ところどころ特定の言葉が塗り潰されている。唯一分かるのは、『異覚』という言葉だけで、文字の一部が見えないせいで途切れ途切れになっていて分からない。
「見えないのは『異覚』という言葉の前後にある文字ね」
「途切れてる部分から繋げてみよう」
『異覚』の前後の言葉をメモに取って、これらのワードの一部を繋げて解読できたのは、
感情の部分は解読不能だったが、恐らく僕達の火花や雷などの力は、異覚の力によるものだと分かった。
さらにページを進める。ここからは解読できた言葉を当てて読んでいこう。
『同年・六・二十三 異覚能力の法則を、ドイツの研究者に教えてもらった。異覚能力の法則は以下の通りである』
異覚には、固有能力の発現以外の制約や規則性のようなものがあるのだろうか?
『一つ。異覚の名称は、その異覚の特徴に当てはまる漢字二文字で表される。二つ。異覚能力者は、
「私達の力も異覚能力で、無理矢理壊したのが異覚障壁だったのね。公表されていたらどうなっていたか……」
「名前もあんのか、二文字だよな。迷うぜ……」
「名前なら僕が付けようか? 僕にできることなんてこれくらいしかないだろうけど」
大知が後に付けてくれた、それぞれの異覚の名前。
僕の異覚は、炎や火花を出す能力にちなんで【
『三つ。異覚能力の発現は自然的発現と、人為的発現の二つがある。異覚能力の因子を持つ五歳程度の子供から能力の発現が見られた場合は自然的発現となる。人為的発現は――――――』
異覚や感情の時と同じように、人為的発現の部分がまるっきり塗り潰されている。それどころか、ページを進めると、ほぼ全てのページが燃えていて、文章のほとんどが黒くくすんで分からなくなっていた。
「何なんだこの手記は?」
「第二次世界大戦が終戦してからまもない頃だから、機密事項があれば抹消されていてもおかしくないかもしれない」
「うーん……」
突然、どこからか突風が吹き抜け、僕の手に当たった風は瞬く間に斬撃に変わった。
「うあっ!」
僕は慌てて手記を手離す。幸い、指が少し切り傷を負ったくらいで済んだが、風の斬撃に巻き込まれた手記は一本の斬撃の跡がつき、二〜三ページに渡って破れてしまった。
「っぶね……」
「こんな斬撃、どこから?」
葵が視線を向けた先には、黒いローブに身を包んだ青年がいた。みんな一斉に彼を見ると同時に、いつ戦闘に入ってもいい体勢になった。
「誰だ……、てめぇ」
「……」
翔真は軽く脅す感じで青年を睨みつける。しかし、彼は何も言わない。
「何か言えよ。今のはもしかしてお前か?」
【あぁ】
翔真の問いに、彼はイタリア語で返す。
「葵、今の攻撃は彼なのかな?」
「彼の言葉を聞く限り、そうみたいね」
葵はイタリア語も、基礎程度なら多少かじっているので、少しだけなら彼の言ったことを理解できるらしい。
「日本語で返事されねぇと、分かんねぇっつの!!」
翔真がしびれを切らし、雷で青年に攻撃するが、彼は電撃をひらりはらりと避ける。そして彼が人差し指をすいっと上げると、落ちていたトラベラーズノートが風に吹かれ、青年の手に渡った。
「返せっ! あぁっ!?」
白紙のページを破り、イタリア語で、
『ポンペイ、円形闘技場に来い』
とだけ書かれた置き手紙(?)を書いて消えてしまった。
「彼もまた……異覚能力者?」
「分からないけど、彼が手記の持ち主と関係のある者だとしたら、突き止めなきゃ!」
「ということはポンペイ……もといイタリアに向かうのは……」
「明日。終業式が終わってすぐだ!」
*
翌日。
「黒田君も行くの?」
「うん。僕は異覚能力なんか持ってないけど、それでも、君らの力になりたいから、ダメ……かな?」
「んなことねぇよ、お前も異覚の謎を解いてくれた一人だろ? この旅でも目一杯力借してくれよな」
「ええ。お願いね」
「みんな……」
よろしく、というように大知は頭を下げた。
「よし……異覚の深層を探る旅に、出発だ!!」
僕らは旅の始まりを掲げて、イタリア行きの飛行機に乗り込んだ。
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