第三話:この力を

 鉄人と森さんの暴走を止めた僕と葵、そして翔真。

「ひとまず、これで一安心ってとこか」

「いや、まだだよ」

「片桐君と詩音は……」

 二人に駆け寄り、状態を確認する。

「気絶してるだけみたいね」

「保健室に運ぶか」

 二人を背負って保健室に行った僕たち。そこで、意外な人物にぶつかった。

「どあっ⁉︎」

 それは……。

「ったぁ……。あれ、駆に文月さん。んでもう一人は……?」

 本を両手に抱えた大知だった。保健室内のテーブルの上には何冊かの分厚い本が漁るように置かれている。机に多少のスペースがあったとはいえ、保健室の先生からすればはた迷惑でしかない状態だった。

「……大知!? 無事でよかったって、何ともなかったの?」

「なかったって? 僕さっきまで図書室いたんだけど」

「誰」

「あー、友達」

 それにしても、暴走したのが鉄人と森さんだけで、その場にいなかった大知だけが無事だった事は、どうしても気にかかるが……。とりあえず鉄人と森さんの二人をベッドに寝かせてから、話を始めよう。

「そうだたい……」

「黒田君、駆が部活の時間に何してたか、覚えてる?」

 僕は大知に質問しようとしたが、それよりも葵の方が早かった。

「図書室で本読んでたよ。それてやけに外ががやがやしてたから、窓を見たら、同学年くらいの二人が暴れてた」

「その二人が詩音と……」

「鉄人だったんだ」

「それで、その現象について調べてたってわけ」

「何か分かったことは?」

「どの文献にも、あの現象については書かれてなかったぐらいかな」

 やはりこの時は、二人の暴走や僕達の能力についてはまだ解明も証明もされていないのだろう。そうだ。

「みんな、僕の家に行ってみない? 何か手がかりがあるかもしれない」

「駆ん? 文月さんはともかく、僕と転校生も……?」

「うん。手をつけてない所もあったし、人は多い方がいいじゃん?」

「そうだな。あと、黒田とか? 俺は翔真。早稲田翔真わせだ しょうまだ。覚えたな?」

「あ……うん、僕、黒田大知。よろしく、早稲田」

「翔真でいいっつの」

 早稲田翔真。改めて彼のフルネームを知れたところで、保健室を出てから靴箱へ向かおうとすると……。

「朝苗!」

 誰かに呼び止められる。振り向くと、サッカー部の顧問だった。先生は翔真の存在に気づいたのか、少しだけ目を丸くする。

「君は?」

「C組の早稲田っす」

 翔真の事を知り、先生は改めて僕達に礼を言った。

「朝苗。黒田から聞いたぞ。二人を止めてくれたようだな、ありがとう」

「いや、翔真が来るまで僕動けなくて……。戦えたのは翔真のおかげです」

「そうか。感謝するよ、早稲田君」

「あー……、どもっす」

 照れ笑いしながら頭をかく翔真。そこで葵の話が入る。

「先生。私達はあの事件、そして私達に眠る能力について調べようと思います。これ以上、詩音や片桐君のような犠牲者を増やさないために」

「そうか。……分かった、片桐と森はこっちで処置はするので、心配はいらない。黒田、文月、早稲田。朝苗。信頼するものを護るために、思う存分自分の能力ちからを使いなさい」

「「「「はいっ!」」」」

 まずは僕の家だ。そこで何か手がかりを探そう。

 校門を出ようとしたら、一瞬遠くからの視線を感じた。

「駆、どうしたの? 行くわよ」

「え? あぁうん!」

(まあ、今は気にする事でもないかな)

 そう思いながら、僕らは学校を後にした。


 

 一方、感じた視線の正体は……、黒いローブに上半身を包んだ青年だった。

【あの暴走を止めるとは……。少しみくびっていた】

 イタリア語で呟く青年は振り返って、夕日に背を向ける。携帯電話を取り出し、誰かと通話を始めた。

【俺だ。あぁ、分かっている。偵察は完了した。報告? そうだな……、例の力で引き起こした暴走を止めた三人組がいたよ。それだけだ】

通話を切り、ポケットダガーを控えめに構えると、駆達が向かった道と逆の方向へ走り出した。

(早いうちに潰しておかなければ後々脅威になるな。朝苗駆か、奴らはおれ達の……)

 そして青年は誰にも気づかれることなく屋上から飛び降り、吹き上がった風とともに姿を消した。


 *


「さ、入って」

 僕の家に帰ると、みんな真っ先に玄関に上がる。

「お邪魔します」

「お邪魔しぁっす」

 翔真と大知は僕の家……というか僕の部屋の中に入るのは初めてだったので、感嘆の声を漏らす。

「うわぁ〜。友達ん家の部屋とか初めて入った」

「文月よく平然としてられるな」

「流石は幼なじみ」

 今朝、わざわざ僕を起こすために部屋へ入ってきたのだから、幼なじみだけあって、葵の行動力は伊達じゃない。目を逸らして髪をいじる彼女を横目に、大知が話を始める。

「さて、本題に入ろうか。駆と文月さん、そして翔真は、何か特殊な能力を持っているんだよね?」

「あぁ。僕の場合は炎や火花を出す能力だね」

「私は氷の塊を生み出す能力」

「俺は雷を出したな。なんでか分かんねぇけど、あん時は普通に電撃使って戦えてた」

 大知が言うには、この時点で分かっている事は大きく三つ。

 一つ目は、僕達は炎や氷、雷などの特殊な能力を持つこと。

 二つ目は、大知が学校の図書館で調べた本にはどれも、僕達の能力や、鉄人と森さんが暴走した原因は言及されていなかったこと。

 三つ目は二つ目を根拠とし、能力の研究記録は意図的に抹消された、あるいは元々科学的・考古学的にも解明されていないと考えられることだ。

「だぁもう埒が開かねぇ! 部屋ん中でも手当たり次第探すぞ」

「ちょっと早稲田、人ん家の部屋を勝手に……」

 大知の忠告を聞かずに、押し入れの中を漁る翔真。

「じゃあ押入れの探索は翔真に頼むよ」

 僕が言うと大知は諦めてため息をつき、葵に一つ質問をする。

「そういえば文月さんの能力だけど、氷を生み出すというのは無からなのかな?」

「無というよりは、冷気で冷やして出す感覚だったと思う。水蒸気を冷やしたのか、もっと分子レベルの微々たる物質か……、難しいわね」

「駆はどんな感じだった?」

「どうだろ……。咄嗟だったから覚えてないけど、強いて言えば炎を出す前と後で、呼吸の回数が増えたような、違ったような……」

 僕と葵の能力について話していると……。

 ガンッ!

「がっ!?」

 押入れを漁っていた翔真が頭をぶつける音がした。同時に翔真の傷む声が出た。

「どうしたの!?」

 僕と大知が翔真に近寄る。翔真の目の前にあったのは、木の板と金属のふちでできた小さい箱だった。

「箱……?」

「これだ……、多分これに何か隠されてる!」

 開かずの金庫のような、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。どこの誰が隠したのか、何が入っているのかは分からないが、言える事はただ一つ。僕達はこれより、パンドラの箱を開けるということだ。

「だけどこの箱には鍵穴があるのに、肝心の鍵がない」

「どうする? 一番手っ取り早い方法は……」

「簡単だ。外からこじ開ける!」

「待って! 部屋の中は危険だから、せめて外で開けましょう」

 葵の提案で、金属の箱を庭へ持ち出すことにした。そして次の話でついに、僕と葵と、翔真の能力の謎が明らかになる。

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